§4 動力炉開発

 現在わが国で建設がすすめられている原子力発電所はすべて軽水炉によるものである。軽水炉は現在実用化されている原子炉としてすぐれた経済性を有する炉であるが,核燃料の有効利用という面から見て限度がある。一方,高速増殖炉は消費された以上の核燃料を生成する画期的なものであり,ウランの持つエネルギーを最高限度に利用しうる最も理想的な原子炉である。しかし高速増殖炉が実用化されるまでには長期の開発期間を要するため,高速増殖炉実用化までの過渡的な段階として,軽水炉と違い天然ウランが利用でき,早期の実用化が期待される新型転換炉の開発が重要である。
 このような観点からわが国は,高速増殖炉および新型転換炉の開発を国のプロジェクトとして積極的に推進している。昭和43年3月には動力炉開発についての基本方針が策定され,同年4月,43年度から45年度までの具体的な動力炉開発業務を定めた第1次基本計画を策定した。45年度は第1次基本計画の最後の年に当り,過去3ヶ年の新型動力炉の研究開発の成果をふまえ新たに昭和46年度から49年度までの期間を対象とした第2次基本計画の策定がすすめられた。
 新型転換炉の開発については,電気出力20万キロワット程度の重水減速沸騰軽水冷却型の原型炉の建設をすすめることとし,その建設に先立ち44年には新型転換炉評価検討専門部会において技術的,経済的見通しについての検討が行われ,原型炉を動燃事業団の計画どおり建設することが妥当であるとの結論を得た。45年11月には内閣総理大臣の原子炉設置許可を得,敦賀において基礎工事を開始するとともに,機器の製作について発注準備契約交渉がすすめられた。なお,46年4月に策定された第2次基本計画では,昭和50年に同原型炉を臨界にいたらせるものとしている。
 高速増殖炉についてはプルトニウム,ウラン混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型高速増殖炉の開発をすすめている。高速実験炉建設については45年2月内閣総理大臣の設置許可を得,45年度には,原子炉建屋の基礎工事を終え,格納容器の据付けを行なうとともに,炉心本体構成機器の製作を開始した。
 また実験炉建設の経験をもとに建設を予定している原型炉については,前年度に引きつづき第1次設計を行なうとともに炉心およびプラントの主要仕様の評価検討を行った。
 第2次基本計画では実験炉については第1期熱出力5万キロワット(目標熱出力10万キロワット程度)のものを昭和49年に,また原型炉としては電気出力20万ないし30万キロワット程度のものを53年頃臨界に至らせるものとしている。
 このようにわが国の動力炉開発は第1次基本計画で示された研究開発課題についてかなりの成果を収めつつ進められているが,第2次基本計画で明らかにされたように,新型転換炉原型炉,高速増殖炉実験炉および原型炉等の臨界目標について,それぞれ2年程度の遅れを見せている。これは,新型動力炉の開発が10数年の開発期間と2000億円以上の開発資金を要するわが国では末曾有の巨大科学技術プロジェクトであり,研究要素が極めて多岐にわたっているため,多数の人材と関係各界の密接な協力および綿密なプロジェクト管理等が必要であるが,これ等の問題を短期間に解決することが予想以上に困難であったためである。
 しかし,このような困難を克服することは,単に原子力の研究開発の進展をはかるのみならず,わが国科学技術水準の向上,ひいては産業基盤の強化に大きく貢献するものと考えられる。このため原子力委員会はこれまでの研究開発の成果および経験をふまえて,今後の動力炉開発を推進することとしている。


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