§1 序説

 近年わが国の電力需要の増大には著しいものがある。これに対処し電力の安定確保をはかるためにはエネルギー源の多様化をはかることが肝要である。現在わが国においては,輸入技術と海外の核燃料サービス等をベースとして,原子力発電の実用化が急テンポに進展し,発電炉機器産業を中心とした原子力産業が新しい時代の担い手として,わが国産業の中に定着しつつある。
 しかしながら,原子力開発利用を長期的かつ円滑に推進するためには,自主技術開発の必要性は益々高まっている。このため,長期政策目標として新型動力炉および原子力船の自主開発を進めるとともに自主的核燃料サイクルの確立をめざし使用済燃料の再処理工場の建設,ウラン濃縮に関する研究等を精力的に推進しつつある。
 新型動力炉の開発および原子力第1船の建造については既にナショナル・プロジェクトとして,政府関連機関を中核とし,産官学の緊密な協力のもとに,国の総力を結集して推進している。これらの研究開発は,多額の資金と長期にわたる開発期間を要し,多岐にわたる技術と人材を結集してはじめて達成されるもので,わが国が初めて取組んでいる巨大科学技術プロジェクトであり,国際的には欧米先進国における動力炉開発等に伍して推進しているものである。このような環境のもとで計画を遂行することによって得られる経験は将来,ウラン濃縮技術や核融合炉の開発計画に取り組む段階において,計画の設定,運営管理,人材および技術の動員などの方法に寄与するものである。しかし,これらの計画を成功裏に完結させるまでには,計画設定時に予測した以上の困難を克服しなければならない。
 また,核燃料サイクルについては,核燃料の成型加工分野で海外の技術を導入して産業化が進められ,使用済燃料の再処理についても46年6月には,第一工場の建設に着手した。しかし,ウラン資源の確保から回収プルトニウムの再利用に至る一連の核燃料サイクルを確固たる技術基盤の上に,国際的に競争力を有する産業として確立するためには,海外ウラン資源の確保,ウラン濃縮の技術開発およばその工業化,プルトニウムの動力炉燃料としての再利用等の課題を解決しなければならない。とくに,原子力発電の進展により急激に需要の増大する濃縮ウランについては,その供給の全面的な海外依存は困難な見通しにあり,しかも,英国,西独およびオランダによるウラン濃縮工場共同計画の進展,フランスによる欧州共同濃縮工場建設計画の提案,米国のガス拡散法によるウラン濃縮技術の海外提供の動きなどウラン濃縮をめぐる国際情勢はきわめて流動的である。このような情勢下において,わが国はウラン濃縮の研究を推進しつつ,将来低廉かつ安定した濃縮ウランを自主的に確保するための方策を探求しなければならない。
 このようにわが国においては今や,動力炉,原子力船などの自主開発の本格化に加え,核燃料サイクルを確立するにあたり流動化する国際情勢のもとで,その決断が迫られるなどわが国の原子力開発は新たな局面を迎えつつあるものと言えよう。
 このときに当り,原子力委員会は,昭和42年に策定した原子力開発利用長期計画を,その後の情勢変化に対応して改訂し,わが国における原子力の開発利用を推進するための長期的方策と当面の具体的施策を明らかにし,これにもとづき,原子力の開発および利用を計画的,効率的に進めることとしている。
 国民一般の原子力開発についての理解と協力が切に望まれるところである。


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