§2 医学利用

 放射線の医学利用は,60Co,226Ra等の密封されたアイソトープやリニアアクセラレータ,ベータトロン等の放射線発生装置を利用した悪性腫瘍の治療およびx線発生装置による診断を中心とする放射線診断および治療と131I,99mTc等の非密封アイソトープを用いての甲状腺,脳等の診断または臓器の機能検査または治療を行なう核医学との二つの方法に大別される。
 放射線治療の分野では,小線源による治療として226Raや60Coの針および管を用いての舌がんや子宮頚部がん等の治療が行なわれている。また60So,137Cs等の大線源のガンマ線照射装置およびリニアアクセラレータ,ベーダトロンといつた放射線発生装置を用いて乳がん等の表在性の悪性腫瘍のみならず,胃がん,食道がん等の深在性の悪性腫瘍の治療が行なわれており,これらの装置が大病院を中心としてかなり普及してきている。またこれらの装置を用いた治療技術も着々と進展し,特に電子線を用いて開創術中電子線大量照射法による膀胱がんの治療や,舌がんの治療に成果を挙げている。
 一方,これらガンマ線,エックス線および電子線と異なり,中性子線が低酸素細胞を有する悪性腫瘍に対して著しい効果を発揮することが明らかとなり,中性子線を用いての悪性腫瘍の治療方法が脚光をあびてきた。放射線医学総合研究所では昭和45年度より5ケ年計画でサイクロトロンの建設に着手し,これを利用して,総合的な研究体制のもとに中性子線による悪性腫瘍の治療に関連する諸門題を解明するとともに,サイクロトロンにより生産されるラジオアイソトープの医学利用についても研究を推進することを目的として,中性子線等の医学利用に関する調査研究を開始した。
 核医学の分野では,患者に投与するアイソトープの聞発,体内に投与されたアイソトープからの放射能量を測定する測定器と測定方法の開発及び測定器により得られた情報の処理等について成果が得られている。
 先ず患者に投与するアイソトープとしては,99mTcの使用量が大幅に伸びている。これは,99mTcが次のような利点を有しているためと考えられる。① 99Moを親核種としてミルキング法により溶出されるもので,99mTcゼネレータがあればどこでも診断等に利用出来る核種である。② 測定器に適したエネルギーを持つている。③ 半減期が短かいことから患者に大量に投与することが出来,鮮明な診断像が得られる。④ 診断部位が脳を始めとして,肝臓,骨盤,肺等と広範囲であることが挙げられる。
 この他113Snからミルキング法により溶出される113Inの利用も着々と拡大している。また新らしく診断に利用されるようになってきたアイソトープとしては,67Gaがある。このアイソトープは,骨等の悪性腫瘍に親和性を持つ性質を有していることから,骨腫瘍の診断に用いられる。
 測定器については,シンチカメラを用いての診断方法がルーチン化してきている。この装置は,従来用いられてきた測定器であるシンチスキャンナに比べ非常に短かい時間内に診断を行なうための像(シンチグラムという)が得られることおよび時間を追って連続的にシンチグラムをとれば,腎臓等の機能検査を行なうことのできる等の利点を有している。
 つぎにシンチカメラ等によって得られた像から病気の診断を行なう方法については,シンチレーションスキャンナと電子計算機をオン・ラインで結び,電子計算機による画像処理の研究を放射線医学総合研究所で行なっている。これは,シンチレーションスキャンナにより得られた像を電子計算機に送りこみ,電子計算機を用いて,スムージング等の像処理を行なうことにより正確な診断を行なうための情報を多く得ることと,じん速に正確な診断方法を確立するためのものである。


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