§4 原子力船の実用化の見通し

1959年にソ連の砕水船レーニン号が世界で初めての平和目的の原子力船として出現して以来,1962年(昭和37年)には米国のサバンナ号,1968年(昭和43年)には西独のオット・ハーン号が完成し,またわが国では47年度末完成を目途に原子力第1船「むつ」の建造がすすめられている。これらはすべて実験船の色彩が強く,在来船と経済的に競合できるような実用原子力船はまだ実現していない。
 原子力船が実用商船として運航されるためには,在来船に比して経済的に十分成り立つことおよび,国際法上,航行,入出港の自由が在来船におけると同様十分に保証されていること,寄港地点において燃料交換施設,修理施設などの諸施設が整備されていることなどの条件が満足されなければならない。特に原子力船の経済性についてはどの程度の機関出力をもつた原子力船が在来船と競合し得るのか,現在世界的に見解は一致していない。即ち,西独の見通しは1970年代初期には4万ないし5万馬力以上,フランスでは,1985年の時点で栄観的にみても12万馬力以上,わが国においては,1970年代後半にはおよそ12万馬力以上でなければ原子力船は在来船と競合し得ないとしている。このことは,ひとえに,舶用炉の技術進歩及び価格の評価の相違に起因している。
 前述の原子力船懇談会の報告においては,このように各国の舶用炉の評価が相違している現在の時点では,原子力船の経済的見通しを得ることは困難であるとしている。
 一方,日本原子力産業会議の原子力船懇談会報告書「原子力船に関する長期展望」(46年3月作製)においては,在来船原子力船との経済的競合点を求める場合舶用炉の技術動向および価格等について不明確な点が多いので,種々の仮定に基づいてではあるが,2000年に至るまでの全世界の船腹量および船腹構成を求め,これに基づく原子力船の実現可能な時期とその需要規模を一応示した。これによると,わが国においては1980年に原子力コンテナー船2隻の竣工を見通しているが,その建造の着手は1970年代の半ばに必要となるものと予測している。
 このように,舶用炉の技術動向および価格が明確にされなければ,原子力船の経済的見通しを得ることは難しく,今後は舶用炉の経済的評価ならびに改良研究が強く望まれるところである。
 なお,欧州原子力機関(ENEA)の下に「原子力船寄港のための国際協定に関する限定作業部会」が1971年3月に開催され,わが国も含め12ケ国が参加して,二国間モデル協定の作成準備を行なった。一方,原子力船出現等のため修正増補され,1965年5月発効した「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)の加盟国は86ケ国(香港,プエルトリコを含む)にのぼっている。


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