§3 原子力船の研究開発

 わが国の原子力船の研究開発は,第1船「むつ」の建造により,船体および舶用炉を一体とした原子力船建造に関する技術体系を確立し,第2船以降の実用原子力船の建造は民間企業が中心となって行なうことを期待し,政府は必要に応じて適切な助成策を講ずる必要があるという基本方針に沿つて調査研究がすすめられている。
 原子力船の経済性は,舶用炉の価格によって非常に左右され,また,原子力船の技術的問題点の大部分は舶用炉にある。しかしながら安全にして経済的な実用舶用炉は世界的にも未だ実現しておらず,今後の研究開発に期待するところは大きい。実用的な舶用炉は,一次系機器の一体化,炉心の長寿命化,高出力高密度化を図るとともに,遮蔽,格納容器等安全防護設備の小型軽量化を達成し,かつ,振動,動揺,衝突等船舶特有の問題に対して十分安全なものとしなければならない。
 原子力委員会の原子力船懇談会は,約1年にわたる審議の結果,45年8月概略次のような内容を骨子とする報告書を提出した。
(1) 原子力船の実用化をすすめるにあたっては,安全性および信頼性とともに商船としての経済性の確保を考慮することとし,第1船「むつ」の建造,運航によって得られた今後の経験を活用し開発をすすめるべきである。
(2) わが国として,一体型加圧水炉を主眼とした舶用炉の設計,研究を早急に行ない,舶用炉の技術的,経済的問題点を明らかにすることが必要である。
(3) 原子力船実用化のための方策は,この研究成果と第1船「むつ」の成果,海外の高速コンテナ船の動行などをあわせて考慮し,改めて検討することが適切である。
(4) 原子力船の入出港・航行の自由の保証を,国際的,国内的に確保することは当面相当の困難が予想されるので,今後その解決のための一層の努力を行なわなければならない。
45年8月,原子力委員会はこの原子力船懇談会の報告を受けて,同報告書の趣旨を尊重し,今後舶用炉の研究開発の促進等適切な措置を講ずる旨の決定を行なった。
 原子力船の研究としては,45年度は,前年度に引続き運輸省船舶技術研究所において,γ線遮蔽,船体運動による炉心の熱的特性への影響,原子力半潜水船の可能性等の研究が実施された。また,(社)日本造船研究協会では原子力平和利用研究委託費により舶用炉圧力抑制格納方式に関する試験研究が行なわれた。
 さらに,現在世界で最も進んだと言われている西ドイツのインター・アトム社で開発された一体型加圧水炉(EFDR)の経済的評価を行なうことを目的として,西ドイツのGKSS(原子力船建造運航利用会社)と我が国の海運,造船業界との間で共同研究が行なわれることとなり,EFDRを搭載した8万軸馬力,約2,000個積コンテナ船一隻について45年12月からそれぞれの国で概念設計を開始した。この日独共同評価研究は,46年8月頃を目途としてとりまとめを行なう予定となっている。


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