§4 ウラン濃縮の研究開発

 ウラン濃縮の方法としては,原理的には種々考えられているが,現在のところ工業的規模での生産が行なわれ技術的に実証されている方法は,ガス拡散法のみであり,各国でかなり研究開発が進められ将来を期待されているのが遠心分離法である。
 両方式を比較すると,ガス拡散方式では,工場建設費が安いが,大容量でなければ経済性がなく,電力を大量に消費するという欠点がある。一方遠心分離方式では,工場建設費はガス拡散方式のそれの2倍程度かかるが,電力は7分の1ないし4分の1ですむと考えられ,また段分離効率が20〜30倍もあることなどにより高濃縮,少量生産向きといわれている。いずれが有利であるかは,設置する国の国状によって違ってくると思われるが,遠心分離法はまだ相当規模のプラントについて技術的にも経済的にも実証されたものではないので,ガス拡散法と単純に比較することはできない。
 わが国では,42年の長期計画改訂時には,一応軽水炉の有利性がはつきりしたため,将来の濃縮ウランの需要増に対処して,わが国でもウラン濃縮事業を行なうことについて十分な準備を行なうこととし,わが国で採用すべきウラン濃縮方式を決定するに必要な資料を得るために,ガス拡散法については,理化学研究所が,遠心分離法については動燃事業団が中心となって基礎的研究が進められてきた。
 その後43年に設置されたウラン濃縮研究懇談会からウラン濃縮研究開発の推進方策に関する報告を受けた原子力委員会は,44年8月ウラン濃縮研究開発について,その第1段階を原子力特定総合研究に指定するとともに,ウラン濃縮研究開発基本計画を定め,これによって研究開発を推進することとしている。
 同基本計画では,第1段階を昭和45年度から47年度の3年間とし,ガス拡散法および遠心分離法の両方式について,ウラン濃縮に関する技術的諸問題の解明の見通しを得ることとし,ガス拡散法の研究開発については原研が,遠心分離法の研究開発については動燃事業団が中心となって実施することとした。
 また,両方式の研究開発を推進するに当つては,可能な限り大学および民間企業の技術および人材の活用を図るものとした。
 一方,この研究開発の総合的かつ効果的な推進を図るため,45年4月原子力局に各実施機関の関係者および学識経験者からなる「ウラン濃縮研究運営会議」が設置された。
 なお,原子力委員会は,この特定総合研究の終了時には諸外国における進展状況を勘案しつつ,各方式の研究開発の成果を評価するとともに第2段階以降(昭和48年度以降)の方針を定めることとしている。
45年度は基本計画の初年度として,計画に沿ってウラン濃縮の研究開発の広汎な分野で着実な進展がみられた。

第6章 原子力船


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