§1 概要

 わが国の原子力発電の開発規模は,昭和42年に「原子力開発利用長期計画」を改訂した当時における予想をはるかに上回る進展をみせており,50年度には866万キロワット,60年度にはおよそ6,000万キロワットに達するものと見込まれている。これら原子力発電所の原子炉の大部分は,濃縮ウラン使用の軽水炉によって占められるものと予想される。
 他方,わが国では,動燃事業団において,高速増殖炉および新型転換炉の開発を積極的に進め,濃縮ウランに依存しない核燃料サイクルの確立をめざしているが,これら新しい型の動力炉が本格的に実用化されるのは,まだ先のことと考えられ,電源開発における原子力の比重が高まるに伴い,わが国が必要とする濃縮ウランの量は,今後急速に増大する見通しである。
 現在,ウラン濃縮工場を保有する国は米,英,仏,ソ,中の5カ国であるが,これらの工場は本来軍事目的のために建設されたものであって,これに使用されている濃縮技術は国家の最高機密として扱われており,さらに工業規模の濃縮工場の建設,運転には,きわめて高度の技術と莫大な資金を必要とするものである。
 このような情勢のなかで濃縮ウランを商業ベースで供給できるのは米国1国であり,わが国もその供給を米国に依存しているのが現状である。しかし,世界的に濃縮ウランの需要が大幅に増大しつつあり,それに対する供給力不足が懸念されているなかで,わが国が今後長期にわたり大量の濃縮ウランの安定確保をはかることは,わが国のエネルギー政策上の重要課題であり,この解決のために早急に対処する必要があるといえよう。


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