IV核兵器不拡散条約関係資料

2核兵器不拡散条約署名の際の日本国政府声明(昭和45年2月3日)

 日本国政府は,核兵器の拡散が核戦争の危険を増大させると信じており,核兵器の拡散を防止することは世界平和維持に関する日本国政府の政策と一致するものであるので,この条約の精神に賛成してきた。
 日本国政府は,以下に述べる基本的考え方に基づきこの条約に署名する。
 日本国政府は,この条約が核軍縮の第一歩になるものと確信し,またこの条約を効果あらしめるため,できるだけ多くの国がこの条約に参加することを望むものである。特に,核兵器を保有していながら,未だこの条約に参加の意図を示していないフランス共和国政府及び中華人民共和国政府が速やかに条約に参加して,核軍縮のための交渉を誠実に行なうよう希望するが,それまでの間でも,この条約の目的に反するような行動をとらないよう希望する。
 この条約は現在の核兵器国に対してのみ核兵器の保有を認めるものである。このような差別はすべての核兵器国が核兵器を自国の軍備から撤廃することによって窮極的には解消されなければならないものであるが,それまでの間核兵器国は特別な地位にあると同時に特別の責任を負うものであるとの自覚がなければならない。
 この条約は,核兵器その他の核爆発装置又はその管理の取得のみを禁止の対象とするものである。従って,非核兵器国は,この条約によって,原子力平和利用の研究,開発,実施及びこれらのための国際協力をいかなる意味においても妨げられてはならないし,これらの活動のいかなる面においても差別的な取扱をされてはならない。
 日本国政府は,以上の基本的考え方に基づき次の諸点に強い関心を有することを表明する。
 これらの問題は,日本国政府が本条約を批准するに当り,また将来条約締約国として条約運用の再検討に参加する際においても,強い関心を払うであろうことを強調する。
 I軍備および安全保障
1) この条約の第6条で,締約国は,「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的措置につき,並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について,誠実に交渉を行なうことを約束」している。日本国政府は,特に核兵器がこの約束に従い,具体的な核軍縮措置をとることが,この条約の目的実現のため必要であると考える。わが国も軍縮委員会のメンバーとして,軍縮の促進に協力する考えである。
2) 日本国政府は条約の前文に,「諸国が,国際連合憲章に従い,その国際関係において,武力による威嚇又は武力の行使をいかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも,また,国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」との規定が設けられたことを重視し,核兵器国が非核兵器国に対し,核兵器を使用し又はその威嚇をしてはならないことを強調する。
3) 同様に,日本国政府は,核兵器の使用を伴う侵略の犠牲又はそのような侵略の威嚇の対象となった条約締約国である非核兵器国に対しては,国連憲章に従い,援助提供のため直ちに安全保障理事会の行動を求める意図がある旨確認した米,英,ソの宣言を重視すると共に,核兵器国が非核兵器国の安全保障のための実効ある措置につき更に検討を続けることを希望する。
4) 日本国政府は,条約批准までの間,軍縮交渉の推移,安全保障理事会による非核兵器国の安全保障のための決議の実施状況に注目すると共にその他日本国の国益確保の上から考慮すべき問題につき引続き慎重に検討するであろう。
5) 日本国政府は,条約第10条に,「各締約国は,この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは,その主権の行使として,この条約から脱退する権利を有する。」と規定されていることに留意する。
 II原子力平和利用
1) わが国がこの条約の第3条に基づき国際原子力機関との間に締結する保障措置協定の内容は,他の締約国が個別的にまたは他の国と共同して国際原子力機関との間に締結する保障措置協定の内容に比して,わが国にとり,実質的に不利な取扱いとなることがあってはならない。日本国政府としては,この点を十分考慮した上で条約の批准手続をとる考えである。
2) 日本国政府は,核兵器国である米国及び英国の政府が自国の安全保障に直接関係のないすべての原子力活動に国際原子力機関の保障措置適用を受諾するとの意思表示を行なったことを条約を補完する措置として高く評価し,この保証が忠実に実行されることに最大の関心を有する。また他の核兵器国が同様の措置をとることを強く希望する。
3) 保障措置は,核燃料サイクルの枢要な箇所において適用されるとの原則に従い,かつ,その手続は,費用対効果の原則を考慮し合理的であり,可能な限り各国の管理制度を活用し,できる限り簡素なものでなければならない。さらに保障措置の適用によって,産業機密の漏洩その他産業活動が阻害されることがないように十分な措置が講じられなければならない。日本国政府としては,国際原子力機関が技術の進歩に照して,上記の方向で保障措置の内容が改善されるよう不断の努力を行なうことを希望するものであり,日本国政府としてもこれに協力する用意があるが,この目的のため関係国の協力を望むものである。
4) 保障措置適用の対象となる非核兵器国の,保障措置適用の費用に関し,不当な負担を課されないものと了解する。
5) この条約の第3条に基づきわが国が国際原子力機関との間に締結する保障措置協定に従って保障措置が適用されるときは,現行のわが国と米国,英国又はカナダとの間の原子力平和利用における協力にかかる現行の保障措置は,これによって代置されるよう措置されるべきものと考える。
6) 原子力の平和利用及び核爆発の平和的応用のための国際協力に関するこの条約の第4条及び第5条の規定は具体的措置によって促進されなければならない。特に核兵器その他の核爆発装置の製造にも利用しうるとの理由によって非核兵器国におけるいかなる原子力平和利用活動も禁止若しくは制限され,又は,非核兵器国に対する原子力平和利用に関する情報,物質,設備若しくは資材等の移転も拒否されてはならない。


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