§1 原子力特定総合研究

  2核融合

原子力委員会は,42年4月に改訂した長期計画において,プラズマ物理に関する基礎的な研究の充実をはかるとともに,制御された核融合を目的とする総合的な研究開発体制を順次計画的に推進すべきであるとの方針を明らかにした。
 その後,原子力委員会は,この方針にもとづきその具体的実施方法等を検討するため,42年5月,核融合専門部会を設置した。同専門部会は,第1段階の実験装置の型式,規模およびその研究開発計画,さらに,具体的な開発体制について審議し,43年5月その結果を原子力委員会に報告した。
 原子力委員会は,この報告をうけて,43年7月,核融合の研究開発を原子力特定総合研究に指定するとともに,その研究開発基本計画を策定した。
 この基本計画の概要は,44年度から6年間を第一段階として,将来において核融合動力炉へと進展することが予想されるトーラス計画を主計画とし,とくに低ベータ値トーラス予備実験を43年度から先行させ,速かに世界の進歩に対応させるとともに,これに引き続き中間ベータ値トーラス装置を中心装置としての研究をすすめる。原研がこの実施に当り,理研が関連技術開発に協力する。また一方,高ベータ・プラズマの挙動を解明し,将来における高ベータ・プラズマ装置の研究開発に備えて,副計画として高ベーダ計画を並進させることとし,これを電気試験所(電試)が行なうとするものである。
 また,プラズマの基礎研究,人材養成,関連機器の試作研究等については,大学,民間企業に期待することとしており,さらに,この研究開発の推進と評価を行なうために,原子力局に学識経験者からなる「核融合研究運営会議」を設けるとともに,この研究を円滑に実施するため,各実施機関の関係者等からなる核融合連絡会議を設けることになっている。
 この基本計画にしたがって,原研,理研および電試がそれぞれの分野について研究を行なった。すなわち,原研では,44年3月にトーラス型の予備実験装置として低ベータ軸対称性トーラス磁場装量(JFT-1)を完成した。
 この装置を用いての実験では,イオン密度1011/cm3,イオン温度50万度のプラズマを約0,4ミリ秒間安定に保持することができ,また,プラズマのドリフト現象の観測等に成功した。
 さらに,原研では,このJFT-1の成果をふまえて,基本計画の第一段階の目標である中間ベータトーラス磁場装置(JFT-2)の磁場型式としてトカマク型を採用することとし,その設計をすすめている。このJFT-2は,45年度始め建設に着手し,47年度始め完成予定となっている。
 理研においては,マイクロ波によるプラズマの生成,加熱技術等についての研究が,電試においては大型テーダー・ピンチ装置による高ベーダ・プラズマの研究が前年度に引き続きそれぞれ行なわれた。
 また,核融合運営会議が,44年1月原子力局に設けられ,各国の核融合研究の情勢も勘案しつつ本計画の遂行方法,中間ベーダ・トーラス装置の磁場型式等について審議が行なわれた。
 このほか,名古屋大学プラズマ研究所をはじめとして,東京大学,大阪大学等においてプラズマに関する基礎的研究が行なわれた。
 名古屋大学プラズマ研究所では,従来行なってきた種々の基礎研究を再編成して,新たに長期計画を定め,プラズマの重要課題についての基礎研究に着手した。


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