§4 原子力船の実用化
  1原子力船の実用化の見通し

1959年(昭和34年)にソ連の砕水船レーニン号が平和目的の原子力船として初めて世界に出現して以来,1962年(昭和37年)には米国のサバンナ号,1968年(昭和43年)には西独のオット・ハーン号が完成し,またわが国においても47年完成を目途に原子力第1船「むつ」の建造がすすめられている。これらは全て実験船の色彩が強く,在来船と経済的にも競合できるような実用原子力商船はまだ実現していない。
 原子力船が実用商船として運航されるためには,在来船に比して経済的に十分成り立つことおよび,国際法上,航行,入出港などにおいて商船としての取扱いが在来船と同様,支障をきたさないことが必要である。
 原子力船と在来船の経済性を比較した場合,最も大きな相異点は資本費と燃料費である。前者は後者に比して資本費が高く逆に燃料費は安い。従ってこの資本費の差と燃料費の差を相殺する点が原子力船と在来船の経済的競合点とみなされる。これまでわが国をはじめ各国で原子力船の経済性に関する試算が行なわれているが,その多くは,経済性の尺度として貨物の輸送費をとり,同種,同型,同速力の原子力船と在来船を比較する方法をとっている。その結果によると船の機関出力が増大する程,原子力船は在来船に比して相対的に有利になるとの傾向は一致しているが,その具体的領城については各国でまちまちの評価がなされている。
 一方,近年,油輸送船,コンテナ船等において大型化,高速化が著じるしい。このため原子力船に対する期待が高まりつつある。
 このような情勢に対応して原子力委員会は,今後わが国の原子力船の開発の推進に資するため,改めて内外海運界の動向および海外における原子力船開発に関する動向等を十分に把握し,わが国の原子力船の将来のあり方についての検討を行なうことを目的として「原子力船懇談会」を44年6月に設置し,審議を続けている。
  2原子力船の研究開発

わが国の原子力船の研究開発は,第1船「むつ」の建造により,船体および舶用炉を一体とした原子力船建造に関する技術体系を確立し,第2船以降の実用原子力船の建造は民間企業が中心となって行なうことを基本方針として,この方向に沿った調査研究がすすめられてきた。
 原子力船の経済性は,舶用炉価格によって非常に左右され,また原子力船の技術的問題点も大部分舶用炉にある。しかしながら安全にして経済的な実用舶用炉は世界的にも未だ実現しておらず,今後の研究開発に期待するところは大きい。実用的な舶用炉は,一次系機器の一体化,炉心の長寿命化,高出力密度化を図るとともに,遮蔽,格納容器等安全防護設備の小型軽量化を達成し,かつ振動,動揺,衝突等船舶特有の問題に対して十分安全なものとしなければならない。
 現在,世界的には軽水舶用炉を中心に研究がすすめられており,わが国でも「むつ」の建造と併行して高出力加圧水型炉の実現のための改良研究,性能向上のための船体の改良等の研究がすすめられている。
44年度は,前年度に引き続き運輸省船舶技術研究所において,γ線遮蔽,波浪による船体の異常速度および炉心の熱的特性への影響,区画壁を利用した舶用炉格納方式等の研究が実施された。また民間においては,原子力平和利用試験研究委託費により,舶用炉圧力抑制格納方式に関する試験研究が行なわれた。


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