§5 ウラン濃縮
  1ウラン濃縮の研究開発の必要性

 現在わが国ですすめられている原子力発電の開発はほとんど軽水炉によっており,今後もしばらくこの傾向は持続するものと考えられるが,この軽水炉の運転に必要な濃縮ウランは,現在のところその供給のすべてを米国に頼らざるを得ない状況である。しかし,将来の原子力開発利用を一層発展させるためには,わが国の状況に適した核燃料サイクルの確立をはかり,核燃料の低廉かつ安定した供給をはかることが不可欠である。
 このような観点から原子力委員会は44年5月,ウラン濃縮研究懇談会を設置し,今後の主要な研究課題と,そのための研究実施計画および研究体制について検討を行なわしめた。同懇談会は同年8月,今後の研究開発のすすめ方について原子力委員会に報告を行ない,原子力委員会ではこの報告にもとづいてウラン濃縮研究開発を原子力特定総合研究に指定し,今後一層各界が協力し,総合的に研究開発を推進することとした。(第7章参照)
  2海外におけるウラン濃縮

海外におけるウラン濃縮の研究開発および濃縮工場の運転の状況は次のとおりであり,いずれの国においても国家機関によって直接運営されている。すなわち,米国においては,現在,オークリッジ,パデューカ,ポーツマスでいずれもガス拡散法による工場が稼動中であり,その能力は分離作業量で年間約1万7,000トン(3%濃縮ウラン換算約4,000トン)であるとされている。米国はこれらの三工場によって自国はもとより自由世界の濃縮需要をまかなう考えであるが,今後の原子力発電の進展に伴って濃縮の需要は急速に増大することが見込まれ,1980年(昭和55年)には,分離作業量で約4万トンに達するものと予想されている。このため米国では現有の施設の改善および増出力計画を進め,1978年(昭和53年)頃までに能力を分離作業量で2万5,900トンに高めるとともに1980年以前に新工場を建設する計画である。他方,米国では,一昨年,濃縮工場の民間委譲を望む声が米国原子力産業会議を中心として起ったが,これに対し米国原子力委員会は,電力会社等関係の民間企業の意見を参考として他の政府機関とも検討を行なってきた。しかし,濃縮プラントの増強計画の資金問題にからんで予算当局との意見の調整が得られず,1970年になって政府は民間委譲についてはこれを行わず,プラントの管理,運営機能を強化する方針を定めた。なお,米国ではウラン濃縮に関する研究開発については,AEC関係機関において膈膜の改良を含むガス拡散方式の性能改善に力を入れるとともに,遠心分離法その他の方法についても研究を実施しているものと推定されている。
 英国およびフランスにおいてはガス拡散工場が稼動中であるが,いずれもその能力は分離作業量で年間400トン程度に過ぎない。
 その他,1970年3月(45年3月)には,英国,西ドイツ,およびオランダの三国は遠心分離法によるウラン濃縮工場の共同建設計画が合意に達し,その調印が行なわれた。同工場は英国とオランダに建設され,各プラントの当初の分離作業量は年間50トンで,1972年完成の予定である。


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