§5 海外の新型動力炉開発

  1高速増殖炉

 世界の原子力先進諸国といわれる国々では,それぞれの国情に適した計画に沿って動力炉開発を進めているが,ひとしく高速増殖炉をその開発の最終目標と考えていることはほぼ一致している。このため,各国とも技術的にもつとも可能性が高いと考えられるナトリウム冷却型に開発の主力を注いでおり,実験炉の建設とそれによる燃料照射実験,材料試験等を行なっている。すでに原型炉の建設に着手している国もあり,ひき続き大型実用炉の設計研究が進められている。
 英国においてはドーンレイ実験炉の臨界(1959年)以来,この分野で多くの経験を有しており,現在,ドーンレイ原型炉(PFR 電気出力25万キロワット)を建設中である。この炉は1971年運開の予定であったが,炉容器に関連した技術的問題で遅延を来たし,運開は1972年になるものとみられている。これに続く,大型実用炉(CFR)の設計研究はほぼ完了し,建設に取りかかるばかりになっている。しかし,英国電力庁は1970年に建設を開始する予定で準備を進めていたにもかかわらず,英国原子力産業界の再編成,UKAEAの改組等のため,建設開始は1973年以降になるとみられる。
 フランスではラプソディー実験炉(1967年臨界)が今日まで無事故で運転されており,多数の燃料について高い燃焼度を達成している。動燃事業団が開発中の高速炉についても,その燃料の照射実験を同炉で行なうことになっている。原型炉フェニクス(電気出力 25万キロワット)の建設も急ピッチで進められており,高速炉開発の着手は英国に遅れること8年であったが,原型炉の完成ではほぼ同時となり,1974年には100万キロワット級の実用炉の建設が開始されるものとみられている。
 西ドイツでは,実験炉(KNK)を建設している。これは熱中性子炉心ですでに臨界に達し,ナトリウム冷却について各種の経験を得てきたが,現在,高速炉心に改造中である。これに続いて,ユーリッヒ原子力研究所では電気出力30万キロワットの原型炉(SNR)を建設する準備を行なっている。
 ソ連でも,高速増殖炉の研究開発は早くから行なわれ,2基の実験炉,BR-5およびBOR-60を有し,すでに1964年から電気出力35万キロワットのシェフチェンコ原型炉を建設中である。この炉は発電―脱塩の2重目的炉で1969年運開の予定であったが,循環系等の原因で,1971年頃になるものと思われる。このほか1970年には,ベロヤルスクに大型実用炉(電気出力60万キロワット)の建設が始められることになっている。
 米国は高速炉にいても,他の炉型と同じく多彩な経験を有しており,その技術力は高く評価されるべきものがある。エンリコ・フェルミ炉は電気出力6万キロワットで実験炉としてはかなり大規模なものであるが,1966年に炉心溶融事故をおこし,以来その修復が行なわれてきた。修理は困難をきわめたが,着実に修復作業が進められ,1970年中には運転再開の見通しが得られるにいたっている。このほか,EBR-IIおよびSEFORの2実験炉があり,加えて,1970年内には大型実験炉FFTFの建設が開始される予定である。しかしながら,これに続く原型炉については,各原子炉メーカー,電力会社およびAECにおいて研究が進められてはいるものの,その具体的計画は今のところはない。
 このほか,イタリアにおいても実験炉の建設が1970年度から始められることになっており,インドも高速炉の技術協力についてフランスに打診を行なっている。
  2新型転換炉

新型転換炉としては中性子経済がすぐれ,転換比が高い重水減速型や高温ガス冷却炉等があげられる。
 重水減速型については,カナダはその開発に積極的であるが,これは,同国がウラン資源に富んでおり,天然ウランをそのまま使える炉型を目標としているためである。
 先ず,重水滅速加圧重水冷却型(CANDU-PHW)の開発を行ない,1966年にはその原型炉ともいうべき,ダグラスポイント発電所(電気出力20万キロワット)を完成した。ひきつづいて,50万キロワット級4基をピッカリングに建設中であり,これらは1972年から73年にかけて完成の予定である。カナダはこの炉型をインドヘ輸出することにも成功し,現在建設が進められている。
 さらに,カナダではこの炉型を発展させ,冷却の部分はコストの高い重水に替えて軽水を用いて沸騰軽水型にした,いわゆるCANDU-BLW型を開発し,現在その電気出力25万キロヮットの原型炉を建設中である。
 コールダーホール型およびこれに続くAGRと一貫してガス炉路線に力を入れてきている英国においても重水型について開発の意欲を示し,軽水沸騰型の原型炉(SGHWR 電気出力10万キロヮット)を1967年に臨界に到らしめ,海外市場の開拓を図っている。
 近年,黒鉛減速ガス冷却型について,ガス型炉は高温の出力が得られるという利点に着目し,ヘリウムガスを用いる高温ガス炉の開発に世界的な関心が向けられるにいたっている。とくに西ドイツは製鉄や化学工業に原子炉を使うといういわゆる多目的利用の観点も加えて高温ガス炉の開発に力を注いでいる。すでに,850°Cの高温ヘリウムを得ることができるAVR実験炉(1966年臨界,電気出力1万3000キロワット)によって多くの経験を得ており,電気出力30万キロワットの原型炉THTRの建設を始めることになっている。これと時を同じくして,高温ガス炉の特性を生かしてガスタービンを利用するKSH実験炉の建設が計画されている。
 米国においても高温ガス炉の開発には意欲的で,ピーチ・ボトム実験炉(1966年臨界,電気出力4万キロワット)に次いで,フォートセントブレイン炉(33万キロワット)の建設がすすめられており,1972年には運開の予定である。また,超高温ガス炉のための実験炉としてUHTREX(1965年臨界)があり,瞬間的ではあるが,1320°Cの高温を達成しており,将来の多目的利用に対する技術的可能性が示唆されている。
 このほか,欧州原子力協同体との協力で,英国はドラゴン高温実験炉(1964年臨界)を建設し,AGRに続く第3の炉型として高温ガス炉の開発をすすめている。


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