§7 新たな研究開発分野への期待

 わが国の原子力開発は,原子力発電,原子力船,核燃料等長期にわたって研究開発努力が続けられてきた分野において,漸次,成果を収めつつある一方,原子炉の多目的利用の調査,検討が行なわれているほか,中性子線の医療への応用,あるいは人類の夢である核融合エネルギーの利用等の面で,新しい展開がみられるなど,国民生活の向上,産業構造の改善への原子力の寄与は,より直接的かつ多面的に期待されるようになりつつある。
 原子炉から得られる熱を発電のほか,海水脱塩,工業用のプロセスヒート,地域暖房等に利用するいわゆる原子炉多目的利用への関心が国際的に高まっており,わが国においても調査研究が進められている。このような原子炉の多目的利用は,将来の産業構造に大きな影響を及ぼし,国民生活への寄与を一層大きくするものと期待されるので,原子力委員会は今後の発展に注目し,多大の関心を寄せているところである。
 また,核融合の分野においても,これまでの基礎研究の段階から一歩進めて制御された核融合の実現を明確な目的とする研究開発を原子力特定総合研究に指定し,その研究を強力に推進してきた。44年度には,原研で,低ベータ軸対称トーラス磁場装置(JFT-1)を用いて,プラズマの安定保持に成功したほか,通商産業省電気試験所においても大型テーター・ピンチ装置による高ベータープラズマの研究が進められた。このほかブラズマに関して理化学研究所においては関連技術の研究が,また,大学においては基礎研究がそれぞれすすめられている。
 このほか,医療分野では,従来の放射線治療に加えて,新たに中性子線利用によるガンの治療に対する関心が高まり,44年度においても原子炉利用による脳しゅようの熱中性子捕獲療法が試みられた。
 このような情勢に鑑み,原子力委員会は44年5月,「サイクロトロンによる中性子線医用懇談会」を設け,国内外の研究の現状および将来の研究の進め方について審議を重ねた結果,45年度より医療用サイクロトロンを放医研に建設し,関係機関の協力により,強力に研究を推進することとし,44年度においても必要な調査研究が行なわれた。


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