第1章 総論

§1 序説

 近年における原子力開発利用の進展の中で特筆すべきは,原子力発電の実用化である。経済の高度成長にともない,エネルギー需要は急速に増大しつつあり,その供給の安定化と低廉化をはかることは,エネルギー供給部門にとって至上の命題である。このため,電力部門においては,火力発電設備の拡充に併行して,大規模な原子力発電所が相次いで建設されるに至った。さらに,10年後には,全電力供給量の約23%が原子力によってまかなわれる見通しである。これは,従来の見通しをはるかに上回るものである。
 かかる急速な原子力発電の拡大にともなって,急激な需要増大が見込まれる核燃料を確保するため,海外ウラン資源の探鉱,開発を積極的に進めるとともに,使用済燃料の再処理施設の整備,ウラン濃縮の研究開発の推進など,核燃料サイクルの確立をはかることが従来にもまして緊要な課題となった。
 同時に,長期にわたって原子力発電の円滑な拡大をはかるためには,国情に適した新型動力炉を開発し,核燃料の有効利用をはかるとともに,発電コストを一層低下させねばならない。この観点から,高速増殖炉,および新型転換炉の開発を「国のプロジェクト」として,推進している。昭和44年度に原型炉の建設を決定した新型転換炉については昭和50年代前半に,また,現在,実験炉の建設を進めている高速増殖炉については,昭和60年代の初期において実用化することをめざし,鋭意開発に努力しているところである。しかしながら,原子力先進諸国に伍して,このわが国初の巨人科学技術開発を計画どおり遂行するためには,国の総力を結集して取り組まねばならない。
 上述の原子力発電とその関連分野以外にも原力船の開発,放射線の利用,原子炉の多目的利用等多くの重要事項があげられる。原子力船の開発については,「むつ」の建造を進めており,これを通じて得られる技術経験によって,原子力船の実用化についての見通しがえられるものと期待される。
 また,原子炉の熱エネルギーを発電のほか,海水脱塩,工業用プロセス・ヒート等多目的に利用する原子炉の多目的利用や,中性子線照射によるガンの治療などの新分野への期待も増大しつつある。
 以上概観したごとく,原子力発電の実用期を迎えその円滑な発展をはかることが要請され,また新型動力炉の本格的開発段階に入るなど,わが国の原子力開発利用は極めて重要な時期にあり,関係各界の一層の努力と国民一般の強力な支援がとくに要請されるところである。原子力委員会としても,企画機能の強化をはかって,原子力の開発利用の推進に一層の努力を重ねることとしている。


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