§5 放射線化学

 放射線を化学反応に利用する放射線化学においては,新物質の合成や改良がきわめて有望であり,その工業化への研究開発が行なわれている。
 日本原子力研究所(原研)高崎研究所では,大学,国立試験研究機関,民間等の協力のもとに,線源工学,放射線化学工学およびこれに関連した研究がすすめられ,また,繊維のグラフト重合,エチレンの気相高重合等の有望なプロセスについて,パイロット・プラントにより工業化試験が行なわれている。
 繊維のグラフト重合についてはセルローズ繊維にスチレンをグラフト重合させた製品の試作に成功し,このグラフト繊維の実用性能試験が民間企業に委託された。また,フランス原子力公社(CEA)との協力協定にもとづき,同公社に試験用のグラフト繊維が送られた。
 エチレンの気相高重合については,42年度に開発された生成ポリエチレンの連続取出装置を大型化するための予備試験が行なわれた。また,その工業化のための経済性等の検討がすすめられるとともに,放射線重合ポリエチレンの物性試験および用途開発について大学と協力してすすめられた。
 トリオキサンの放射線固相重合については,40年から中間規模試験装置を建設し,研究がつづけられていたが,42年度に重合の反応条件が確立され,射出成型に必要な一定粘度の安定化ポリマーがえられ,その物性試験が行なわれた。つづいて,43年5月,歯車等の試作が行なわれ,その工業化の見とおしがえられた。これは,わが国独自の技術によって達成されたものであり,この成果は,各界から注目されている。
 放射線によるプラスチックの改良については,42年度に完成したポリ塩化ビニールの中間規模試験装置により,ポリ塩化ビニールの低温,常温時における耐衝撃性を著るしく向上させることに成功した。
 線源工学については,大線量測定および線量率分布測定の検討,クリプトンー85の利用開発等が行なわれたほか,新らたに不飽和ポリエステル樹脂の放射線キュアリングについての工業化試験が開始された。
 国立試験研究機関では,工業技術院の試験研究機関を中心として,放射線化学の反応面における研究が行なわれてきた。名古屋工業技術試験所では,放射線グラフト重合等の高分子化学の研究およびアクリル化合物と四塩化炭素とのテロメリゼーション反応等の低分子化学の研究が行なわれた。繊維工業試験所では,繊維のグラフト重合,資源技術研究所では放射線照射による石油類の化学反応への影響の研究等が引きつづき行なわれた。


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