第5章 原子力船
§1 原子力第一船の建造

1 経緯

 昭和42年3月,内閣総理大臣および運輸大臣は,原子力委員会の方針にもとづき,38年に策定した「原子力第一船開発計画」を改定し,原子力第一船は総トン数8,000トンの特殊貨物船とし,これを46年度末までに完成することとした。
 日本原子力船開発事業団(原船事業団)では,この改定された基本計画に従って,原子力第一船の設計変更を行ない,原子力第一船原子炉設置許可を内閣総理大臣に申請するとともに,船舶建造許可を運輸大臣に申請した。
 その後,原船事業団は,原子力第一船の建造契約締結の作業をすすめ,42年11月,船体部については石川島播磨重工業(株),原子炉部については三菱原子力工業(株)との間に総額約55億6,700万円(船体部約28億9,700万円,原子炉部約26億7,000万円)にのぼる建造契約を締結した。
 この契約は,42年11月,内閣総理大臣の原子炉設置許可および運輸大臣の船舶建造許可により発効し,両者はそれぞれ原子力第一船の建造に着手した。
 この結果,船体については,44年6月12日,進水式が挙行され,船名を「むつ」と命名された。
 なお,「原子力第一船開発基本計画」改訂後の原子力第一船の主要目および建造スケジュールの概要は,次に示すとおりである。

2 建造工事の進捗状況

 原子力第一船の建造工事は,43年度において,ほぼスケジュールどおり,順調に工事がすすめられた。すなわち,船体部については,契約発効後,石川島播磨重工業(株)において,詳細設計,材料手配,内装加工等の工事がすすめられ,43年11月,同社東京第2工場第一船台で起工式が行なわれ,船台上での船殼組立工事が着手された。船殻組立工事は順調に進捗し,甲板捕機,主タービンおよび原子炉関係機器を除く諸機器の据付を終了し,44年6月,進水するにいたった。また,原子炉格納容器については,同社の横浜第1工場で製作がすすめられている。
 船体部の44年度以降の工事スケジュールは,44年6月,進水ののち,同社の東京第2工揚のぎ装岸壁で,原子炉格納容器の積込みおよび船体ぎ装工事を行ない,45年5月末,船体部工事を完了し,原船事業団に引渡されることになっている。
 一方,原子炉については,三菱原子力工業(株)において,詳細設計,材料手配,原子炉関係機器の製作等がすすめられ,43年度末までに,原子炉関係機器のうち,進水前に船体に塔載される補機冷却用のポンプ類,熱交換器,イオン交換塔等の製作を終了した。
 また,原子炉格納容器内の機器の配置を確認するため,実験装置が静岡県三島市に建設され,43年11月実験を終了した。
 なお,原子力第一船は,基本計画に示されているように,国産技術を主体として建造されるが,原子力第一船原子炉装置の効率的な製作をすすめるため,原子炉(加圧軽水型炉)の製作を担当する三菱原子力工業(株)は,43年6月,原子力第一船原子炉設計の技術コンサルテーションを米国ウエスチング・ハウス社に依頼した。
 原子炉部の今後の工事スケジュールは,船体部の工程に合わせて,原子炉機器の製作をすすめ,船体に塔載される一部の機器を除き,その大部分を青森県むつ市に現在建設がすすめられている原子力第一船の定係港に運び,45年6月より,船体部引渡し後,定係港に回航される船体への塔載(原子炉ぎ装)を開始し,引きつづき機能試験を行ない,47年1月末,原船事業団に引渡され,原子力第一船の建造工事を完了することとなっている。


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