§2 核兵器の不拡散に関する条約

1 概要

 43年6月,国連総会において同条約推奨決議案が採択され,7月1日には,ワシントン,ロンドン,モスクワで調印式が行なわれた。44年2月15日現在,署名国は米ソをはじめとする87ヵ国であるが,わが国はまだ調印をしていない。
 同条約は全文11条よりなり,概要は次のとおりである。
(1)核兵器保有国は,核兵器および核爆発装置または,それらの管理をいかなる国にも移譲しないこと,および非核兵器保有国がこれらを製造することにいかなる援助も与えないこと(第1条)。
(2)非核兵器保有国は,核兵器および核爆発装置または,それらの管理をいかなる国からも受領しないこと,および,これらを製造したり,製造のための援助を受けないこと(第2条)。
(3)第1条,第2条の実施のため,非核兵器保有国は,IAEAとの間に協定を締結し,これによって保障措置を受けなければならないこと(第3条)。
(4)本条約は,平和利用の原子力の研究,生産および使用についての当事国の固有の権利を害するものではなく,当事国は,原子力を平和利用のための設備,物質ならびに科学技術情報の交換を容易にし,その交換に参加する権利を有すること(第4条)。
(5)核爆発平和利用から生じる潜在的利益が条約の当事国である非核兵器保有国に対し,適当な国際的監視のもとに,かつ,適当な国際的手続きを通じて,無差別に提供されること(第5条)。
(6)本条約の当事国は,核軍備競争の停止および核軍縮に関する措置および全面的かつ完全な軍備縮少に関する条約について交渉を行なうことを約束すること(第6条)。
(7)本条約発効後5年を経過した時に,再検討のために会議を開催する。さらに,本条約発効後25年を経過した時,条約の有効期限を無期限とするか,または,一定期間延長するかを決定すること(第8条および第10条)。
(8)当事国は,本条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めたときは,条約から脱退する権利を有する。その場合,全当事国および国連安全保障理事会に対し,3ヵ月前に通告すること(第10条)。
 なお,原子力委員会は,43年2月,米ソ両国が他の諸国の意見を考慮して1月に提出していた修正案に対し,その意見を表明した。

2 非核兵器保有国会議

 非核兵器保有国会議は,核不拡散条約について非核兵器保有国が自由な立場で意見を交換するため,国連の提唱により,43年8月29日より9月28日までの約1ヵ月の間,ジュネーブにおいて開催されたもので,85ヵ国の代表が出席したほか,核兵器保有国のうち米,英,仏の3カ国がオブザーバーとして参加した。同会議において採択された原子力平和利用関係の決議は,大要,次のとおりである。
(1)保障措置関係
 イ すべての非核兵器保有国に対し,IAEAの保障措置制度を受諾するよう勧告する。
 ロ IAEAに保障措置を検討する機構を設立するよう勧告する。
 ハ 保障措置を改良し,簡素化する際に,IAEAは,次のことを考慮すべきである。

 ニ 核兵器保有国も,保障措置協定を締結すること。
 ホ 保障措置手続きの重複を避けるような規則を作成すべきである。
(2)原子力平和利用一般
 イ 国連事務総長に対し,原子力の技術が低開発国の経済および科学の発展にいかに貢献し得るかについて,専門家グループを任命し,報告書を作成するよう勧告する。事務総長は,この際,同グループは,IAEAの経験を利用することが望ましく,そして,1969年の国連総会に報告書を提出するよう注意を喚起した。
 ロ IAEAは,核爆発平和利用を含む原子力平和利用に関する情報の普及に関し,最善の努力を払うべきである。
 ハ IAEAに対し,科学技術情報の交換を容易にする国際取極めについて検討するよう要請する。
 ニ IAEAに対し,特殊核分裂性物質の利用,入手等を確保する最適手段を検討するよう勧告する。
 ホ IAEAに対し,技術援助に必要な資金の増大の方途を検討するよう勧告する。
 ヘ IAEAに対し,核爆発平和利用に関し必要な検討を始めるよう勧告する。
 ト IAEAに対し,主として低開発国の原子力計画のための原子力特別基金をつくる方途について検討するよう勧告する。
 チ 核爆発平和利用の,全面核兵器禁止条約との関連における問題を全面的に解決することを勧告する。
 リ 科学者等が原子力利用研究施設を利用できるようすべての有資格国に要請する。
(3)IAEAは,理事会構成の問題を含め,議事手続きおよび取極めを検討することを勧告する。


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