§2 海外における原子力開発利用の動向
3 ウラン濃縮への関心

 他方,当面,世界の原子力発電が,軽水炉,ガス冷却炉をはじめ,重水炉においても,濃縮ウランを燃料とする炉型を主流としてすすめられていることから,濃縮ウランの需給動向に対して,国際的に重大な関心が寄せられるようになった。
 しかも,高速増殖炉,新型転換炉等,核燃料の有効利用をはかり得る新しい動力炉が実用化されたとしても,なお,かなりの長期間,原子力発電は,その投入量がきわめて大きいため,濃縮ウランを燃料とする炉型を併存させるものと考えられている。このため,濃縮ウランの長期需給見とおしを明らかにすることは,今後の原子力発電の推進をはかるうえにきわめて重要であり,その所要量は相当量に達するものと予想されている。
 しかるに,今日,ウラン濃縮施設を保有する国は,米国,英国,フランス,ソ連および中共の5ヵ国といわれており,いずれも軍事目的によって建設,運営されてきたものである。このうち,原子力発電等,平和目的に使用する濃縮ウランを自国以外に供給し得る能力をもち,かつ,委託濃縮制度の開設によって,その意志を明らかにしている国は,現在のところ,米国一国のみである。さらに,以上の諸国とも,米国が明らかにしている濃縮ウラン供給価格(濃縮費)を達成することは困難であると目されている。これらすべてを含め,濃縮ウランの長期需給見とおしに関しては,当面,米国の供給能力を中心として考えなければならず,長期的には,限界に達することは明らかである。
 以上のような事情を背景として,欧州15ヵ国の原子力産業界によって構成される欧州原子力産業会議(FORATOM)では,専門家グループの検討結果にもとづき,1970年代後半には,欧州の濃縮ウラン必要量は,米国等の供給能力を超過する事態が予想されるので,1972年(昭和47年)を目途に,単一の欧州濃縮プラントの建設を決定する必要があること,このため,遠心分離法,ノズル法の研究開発をすすめるとともに,ガス拡散法について,米国,英国,フランスの各国からノウハウの提供を受ける可能性等を交渉すべきこと,また,米国の濃縮費と競合し得るよう各国政府の特別の優遇措置が必要であること等の結論に達した。この結論は,1969年1月,各国の産業界からそれぞれの政府に勧告されることとなった。また,欧州6ヵ国で構成される欧州原子力共同体(EURATOM)においても,その特別作業グループの検討により,同年1月,新濃縮プラントの建設について,共同体ベースによってのみ可能であるとの結論に到達したことが発表された。さらに,1968年11月,英国,ドイツおよびオランダの3国により,遠心分離法に関する共同研究開発の可能性が検討され,1969年3月には,3国政府間でその実施方策とプラント建設および運営につき,ほぼ合意されるにいたっている。
 一方,米国においても,国有の現濃縮プラントを民間に委譲する方針が議論され,これを決定するため,1969年4月には,米国原子力委員会(AEC)により,国内産業界はもちろん,ひろく関係諸国にも,その可否等について意見を求めるなど,広汎な調査が開始された。


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