§1 国内における原子力開発利用の動向
5 新たな研究開発分野の進展

 放射線利用については,医学,農業,工業等の各分野において,逐年,着実な進展がみられているが,43年度には,原研高崎研究所におけるトリオキサンの放射線固相重合による製品工業化の見とおしが明らかになるなど,放射線化学の分野は一段と前進するにいたった。
 42年度から,「原子力特定総合研究」として実施されている食品照射研究開発は,国立試験研究機関,大学,原研,理研等において,広汎かつ総合的に行なわれているが,43年11月,原子力委員会は,食品照射運営会議の報告にもとづき,追加対象品目を決定するとともに,44年度から,共同利用施設を原研高崎研究所に整備することとし,食品照射研究開発の一層の充実をはかった。
 医学の分野においては,最近における粒子加速器の長足の進歩を背景として,新たに速中性子線照射によるがんの治療が注目されており,このため,原子力委員会は,関係有識者の参加を得て,44年5月,「サイクロトロンによる中性子線医用懇談会」を設け,研究開発の方針を検討した。また,43年度には,わが国初の原子炉利用による脳腫瘍の熱中性子捕獲療法が試みられ,その治療手技の確立がはかられた。このほか,農業,工業等の各分野においても,新品種の育成や非破壊検査への新しい放射線の利用など,多くの成果が得られている。
 核融合については,43年7月,原子力委員会は,核融合専門部会の報告にもとづいて検討した結果,これまでの基礎研究の段階から一歩すすめて,制御された核融合の実現を明確な目的とする研究開発を原子力特定総合研究として,44年度から,大学および民間企業の協力のもとに,原研,通商産業省工業技術院電気試験所(電試),および理研において,強力に推進することとした。すでに,43年度に原研,電試,理研において,従来から引きつづき,それぞれ必要な試験研究が実施されたが,とくに原研では,上記の基本計画にもとづき,予備実験装置の整備がすすめられ,研究開発の新たな前進に備えている。
 このほか,原子力発電と海水脱塩との二重目的プラントや原子炉の製鉄利用など,原子炉多目的利用について,国際的な関心が高まっており,43年度には,わが国でも,産業界において,調査研究がすすめられた。この原子炉多目的利用の推進は,原子力の新たな利用分野を開拓し,その産業経済と国民生活への寄与を一層強化するものとして,原子力委員会は,今後の発展に注目し,多大の関心を寄せているところである。


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