§4 工業利用

 放射線の工業利用は,化学,鉄鋼,電機,機械,紙パルプおよび石油業等で広く行なわれており,化学プラントにおける液面計および密度計,紙パルプおよび鉄鋼等における厚み計などのゲージング利用,また,鉄鋼,機械,電機,造船等における非破壊検査装置など工程管理,品質管理等の面で利用されているほか,放射化分析,トレーサー利用等その用途は,多岐にわたっている。
 ゲージング利用については,すでに工程管理に対し広く使用されている,が,さらにオートメーション化を容易にするため,計測値の信頼性と伝達手段の改善等の研究がすすめられている。
 非破壊検査については,従来コバルト-60線源が利用されてきたが,鋼板100ミリメートル程度までの被写体に対して,欠陥識別度のすぐれているラジオアイソトープとして,新たにイリジウム-192が注目され,その研究が積極的にすすめられている。
 放射化分析については,物質の組成,不純物の定量等の分野で,従来の化学分析,機器分析に比べて極微量元素の定量が可能であり,しかも非破壊法で分析できるので,今後ますますその利用範囲は広くなるものと期待されている。この分野では,放射化分析に適する核種の選択,可搬式の中性子発生装置の開発等の研究がすすめられている。
 トレーサー利用については,主として工程における原料物質の移動状況の調査に利用されているが,漂砂や流水の追跡の研究も広く行なわれている。
 とくに,最近重要な社会問題となっている大気や水の汚染等の公害調査への利用の研究がすすめられている。
 また,今後,原子炉の使用済燃料の再処理により得られるラジオアイソトープの利用が重要となるが,その開発研究の一つとして,ストロンチウム-90を用いたアイソトープ電池の開発研究が,民間において,積極的にすすめられている。
 このほか,名古屋工業試験所では,螢光X線分析装置等の計測への利用研究,繊維工業試験所では,トレーサー法による繊維のスピニング機構の研究がすすめられている。


目次へ          第5章へ