§7 安全対策
2環境放射能対策

環境放射能調査は,42年度も,ひきつづき核爆発実験にともなう放射性降下物および米国原子力軍艦の寄港に関し,それぞれ実施された。
 核爆発実験は,42年6月および12月に中共により,第6回および第7回の実験が,また,6月から7月にかけて,南太平洋でフランスにより計3回の実験が行なわれたが,12月の中共核爆発実験により,わずかながら放射性降下物が認められたほかは,わが国への影響はほとんどみられなかった。しかし,内閣の放射能対策本部(対策本部)では,41年12月の第5回中共核爆発実験により,わが国で観測された1日降下量としては,最高の値が検出された事情にかんがみ調査体制の強化と対策の実施について検討を行なった。
 この検討の結果,対策本部の方針にもとづき,科学技術庁原子力局は,2ヵ年計画で調査体制の強化をはかることとし,42年度に,その第1年度の整備を行なった。
 米国原子力軍艦の寄港は,42年4月から43年5月にかけて横須賀港に7回,佐世保港に2回行なわれた。とくに,43年1月には,原子力水上軍艦としてははじめて,原子力空母エンタープライズ号および原子力フリゲート艦トラクストン号が佐世保港に寄港した。
 これらの米国原子力軍艦の寄港にともなう放射能調査については,これまで,とくに放射能水準の変化はみられなかったが,43年5月の原子力潜水艦ソードフィッシュ号の寄港に際し,停泊中に行なわれた5月6日午前の中間測定において,一部で平常値の10〜20倍の値が一時的,かつ,局所的に散在して記録された。
 科学技術庁はこの測定値は人体に実害はないと判断したが,その原因を究明するための検討を5名の専門家に依頼した。
 専門家検討会は現地調査を実施するなど調査検討をすすめた結果,5月13日,科学技術庁長官に対し,中間報告を行なった。
5月14日,原子力委員会は,この中間報告を考慮し種々検討の結果,次のような見解を政府に対し申し述べた。すなわち,それは異常値の原因究明については,さらに調査検討をすすめるべきこと,原子力軍艦寄港時における政府の放射能調査体制の整備強化をはかる必要があること,さらに異常値について調査中であることにかんがみ,また前項の体制の整備強化を図る必要があるので,その間,原子力軍艦の寄港が行なわれないよう善処すべきものと考えるとの内容であった。
 科学技術庁は,原子力委員会の見解にもとづき,専門家検討会に5名の専門家を追加した。同検討会は,米国側の専門家の意見をも聴するなど調査検討を続けた結果,5月27日,最終報告を科学技術庁に提出した。その要旨は,今回の平常と異なる測定値の原因としては,放射能によるものと考えるのが妥当であるが,放射能の原因については,科学的にソードフィッシュ号によるものと確認するにはいたらなかったこと,また,米国側からは,ソードフィッシュ,号の今回の佐世保港寄港中,放射性物質は一切放出しなかった,との言明は得られたが,これを裹づける科学的説明および資料は,軍機に触れるものとして提供されなかったとするものであった。
 原子力委員会は,この専門家検討会の報告をもとにし,米国側専門家の米国政府への調査報告書をも参照しつつ, 検討を行ない,5月29日,本件に関する見解として,(1)原子力軍艦のわが国寄港中は,原子炉の一次冷却水が艦外へ放出されないこと,(2)一次冷却水以外のあらゆる系統(たとえば,ドレイン系統など)からも放射性物質が排出されることのないよう,従来より一層その管理が厳重になされること,(3)原子力軍艦の寄港中は,米国側においても環境モニタリングを行ない,必要に応じ測定結果がわが方に提示されるようにすること,(4)わが国の放射能調査体制の整備強化を図り,今回の如き事例に対しても原因の解明に役立つようにすること,の4点を政府に対し申し述べた。
 政府は,上記原子力委員会の見解にもとづき,(1),(2),(3)の事項について,米国政府に対し申し入れを行なうとともに,(4)の事項についても「原子力軍艦の本邦寄港にともなう放射能調査の整備方針」を定め,予備費を支出して,わが国放射能調査体制の整備強化をはかることとした。


目次へ          第8章へ