§6 放射線利用の進展

 放射線利用は,ラジオアイソトープの円滑な供給,施設の充実,利用技術の開発にともない,医学,農業,工業等の各分野に普及し,とくに最近では,短寿命核種および標識化合物の国産化がすすめられる一方,放射線測定器,粒子加速器などの関連機器の発展とも相まって,その利用分野は一段と拡大している。これにともなって,放射線を利用する事業所の数も,逐年,着実に増加しており,42年度末には,1,540事業所に達することとなった。
 原子力委員会は,このような放射線利用の進展にともない,ラジオアイソトープの生産,廃棄物処理等の促進をはかるとともに,利用分野の一層の拡大をはかるため,放射線利用に関する研究を推進してきた。42年度は,とくに,近年世界各国で注目を集めつつある食品照射の研究開発の重要性にかんがみ,「食品照射研究開発基本計画」を策定し,原子力特定総合研究の最初のケースとしてこれを指定し,この研究開発を強力に推進することとした。
 医学利用の分野では,放射線によるがん等の悪性腫瘍の治療は,すでに広く普及しており,全国主要な病院あるいは各地のがんセンターには,コバルト-60照射装置,リニアック,ベータトロン等の粒子加速器が設置され,威力を発揮している。
 また,ラジオアイソトープによる各種疾病の診断についても,短寿命ラジオアイソトープ,放射性医薬品の国産化,放射線医療機器の改良等による診断技術の向上により,ラジオアイソトープが広く用いられるようになった。
 農業利用の分野では,施肥法,農薬散布法の改善のための研究にラジオアイソトープが用いられ,その成果が実用に供されているほか,優良品種の育成のため,放射線を用いた品種改良の研究がすすめられている。
 工業利用の分野では,厚さ計,液面計等のゲージング利用,バルブ,ボイラー等の非破壊検査としてのラジオグラフィー利用,工程管理等のためのトレーサー利用,放射化分析への利用等広範な利用がはかられている。また,ラジオアイソトープ電池の開発がすすめられ,民間においてストロンチウム-90を用いたラジオアイソトープ電池の試作に成功した。
 放射線化学については,新製品の製造,品質の改良等にきわめて有望であり,工業化への研究開発がすすめられている。原研高崎研究所では,すでに粉末ポリエチレンおよび日本放射線高分子研究協会大阪研究所(大阪研究所)において着想がえられたトリオキサン重合について工業化試験が行なわれてきたが,43年5月,わが国独自の技術により,安価な方法でトリオキサン重合による新製品の工業化について見とおしがえられた。
 また, 42年6月,大阪研究所が原研に移管され,新たに原研高崎研究所の大阪研究所として発足し,放射線化学の基礎研究をすすめている。
 食品照射については,食生活の改善,食品流通の安定化に大きく寄与することが期待される。このため原子力委員会は,40年11月,食品照射専門部会を設置し,その研究開発の推進方策について検討してきたが,同専門部会は,42年7月,原子力委員会にその審議結果を報告した。原子力委員会は,同専門部会の報告にもとづき,同年9月,食品照射を特定総合研究として,関係機関の協力のもとに計画的に推進することとし,「食品照射研究開発基本計画」を策定した。
 これにより,発芽防止を目的とする馬鈴薯,玉ねぎの食品照射については42年度から3年計画として,殺虫および殺菌を目的とする米の食品照射については42年度から5年計画として,研究開発をすすめることとなった。
 ラジオアイソトープの供給については,主として社団法人日本放射性同位元素協会を通じて頒布されているが,放射線利用の拡大に対処して,自給を目途に国内生産体制の整備も原研等においてすすめられており,短寿命核種を中心に国産のラジオアイソトープの供給が増大しつつある。


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