§5 原子力第1船の建造

 原子力第1船については,38年7月に決定された「原子力第1船開発基本計画」にもとづき,原船事業団を中心に,その建造のための準備がすすめられていたが,入札に際して予算船価(36億円)と業者の見積船価(約60億円)との間に大きなへだたりがあり,契約の成立をみるにいたらなかった。このため,原子力委員会は,その着手を延期することとし,40年8月以来,原子力船懇談会を開催し,基本計画の再検討,国産舶用炉と輸入舶用炉の比較等について検討をすすめてきた。原子力委員会は,同懇談会の報告にもとづき,国内技術を主体とする原子炉を搭載する原子力第1船の建造を推進すべきであることを確認した。その後,原子力委員会をはじめ,関係機関の間で,船種,大きさ,船価等について意見調整が行なわれた結果,船種については海洋観測船から特殊貨物船に改め,また,大きさについても,従来の6,000総トンから8,000総トンヘ大型化することとし,42年3月,「原子力第1船開発基本計画」を改訂した。原子力委員会は,これら原子力第1船に対する考え方を,42年4月に改訂した「原子力開発利用長期計画」にとり入れた。
 こうして,原子力第1船については,46年度に完成することを目途として,42年度から本格的にその建設に着手することとし,42年度には約56億円の予算措置が講じられた。また,第1船およびその付帯設備の総所要資金は,約108億円と見積られているが,このうち民間出資については,20億円とすることについて関係各界の了承がえられた。
 この結果,原船事業団は,基本計画の改訂に即応し,第1船の設計変更を行ない,42年4月,原子力第1船原子炉設置許可を内閣総理大臣に申請するとともに,11月,船舶建造許可を運輸大臣に申請した。また,原船事業団は,建造準備に並行して,定係港建設地の選定をすすめていたが,42年11月,青森県むつ市下北埠頭部を建設地とすることについて,地元の了承を得た。
 原子力委員会は,原子力第1船の原子炉設置許可申請後,定係港を含め安全審査をすすめていたが,42年11月,内閣総理大臣に対し,許可の基準に適合している旨答申した。これを受けて,内閣総理大臣は,同月,原船事業団に,原子力第1船原子炉の設置を許可した。さらに,同月,運輸大臣は,第1船の船舶建造を許可した。
 これよりさきに,原船事業団は,船体部について石川島播磨重工業(株)と,原子炉部について三菱原子力工業(株)とそれぞれ建造契約を締結したが,両契約は,原子炉設置許可および船舶建造許可によって発効し,両社は第1船の建造に着手した。
 また,原船事業団は,内閣総理大臣の原子炉設置許可により,定係港の建設の準備に入り,現在,岸壁の築造等がすすめられている。
 なお,原子力第1船は,基本計画に示されているように,国内技術を主体に建造されるが,原子炉部装置の効率的な製作をすすめるため,米国のウエスチングハウス社に設計のコンサルタントを依頼することとしている。
 また,最近における船舶の高速化,巨大化の傾向から原子力船がその有利性を発揮する分野はますます大きくなるものと期待され,原子力委員会が新長期計画に示した見とおしの方針にもとづき,舶用炉の改良研究をはじめ,原子力船の実用化に関し,民間産業界においても検討が行なわれ,原子力船に対する関心のたかまりがみられた。


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