§3 動力炉開発の前進

 原子力発電の推進にあたっては,資源に乏しいわが国としては,核燃料の確保と有効利用をはかり,原子力発電の有利性を最高限に発揮させるため,適切な動力炉の自主開発を推進することがきわめて重要である。
 このような観点から,原子力委員会は,39年以来,動力炉開発懇談会を開催する等,わが国の長期にわたる動力炉の開発について総合的な見地から,その推進方策に関し検討を行なってきた。この結果,41年5月,高速増殖炉および新型転換炉の自主的な開発とその中核となる特殊法人の設立を骨子とする動力炉開発の基本方針を内定した。この方針のもとに,その特殊法人が発足するまでの暫定組織として,41年6月,原研に動力炉開発臨時推進本部を設置し,研究開発計画等について検討本せた。
 その後,原子力委員会は,その動力炉開発の担当機関について所要の検討を行なった結果,42年2月,原子燃料公社を解散し,その業務をもひきついで,動力炉開発および核燃料開発のための事業団を設立することを決定した。
 これらの構想を骨子として,原子力基本法の一部を改正する法律案および動力炉・核燃料開発事業団法案が第55回特別国会に提出され,同法案は,7月14日,両院の審議を経て成立し,7月20日に公布施行され,42年10月2日,動燃事業団は設立登記を完了し,資本金158億円をもって発足した。
 この動力炉の開発計画は,ウランの有する潜在エネルギーを最大限に活用し,核燃料の有効利用をはかることを目的とするものであるが,同時にこれを遂行することは,わが国科学技術水準の向上と原子力産業基盤の確立に大きく寄与することが期待されるものである。これは,わが国としては,かつて経験のない大規模な開発計画であり,その実施にあたっては,長期にわたり多額の資金と多数の人材を要するので,各界の総力をあげてこれを推進する必要がある。
 原子力委員会は,このような観点から,これを「原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)」として,実施することとし,国が開発の目標および期間を明確に定め,体制を整備し,広範な分野にわたる研究開発を系統的,計画的,かつ,総合的に行ない,関係各機関の適切な分担と協力によって,効率的にその推進をはかることとした。
 このような事情にかんがみ,動燃事業団は,原子力委員会の議決を経て,内閣総理大臣が定める基本方針および基本計画に従ってその業務を実施することとされている。
 このため,内閣総理大臣は,43年3月,高速増殖炉およぴ新型転換炉の開発目標の設定,その推進方策を骨子とする基本方針を策定するとともに,これにもとづき45年度までの第1次基本計画を4月に策定した。
 この基本方針においては,高速増殖炉および新型転換炉を,それぞれ昭和60年代の初期および50年代の前半に実用化するため,原型炉の建設運転までの開発を目標としている。すなわち高速増殖炉の開発については,プルトニウム-ウラン混合酸化物系燃料を用いるナトリウム型高速増殖炉の開発を目標として,まず熱出力10万キロワット程度の実験炉を建設し,ひきつづき電気出力20万ないし30万キロワット程度の原型炉を51年度ごろに臨界に達せしめることを目途としている。また,新型転換炉の開発については,天然ウランを燃料に用いる重水減速沸騰軽水冷却型炉の開発を目標として,初期装荷燃料として微濃縮ウランまたはプルトニウム富化天然ウランを用いる電気出力約20万キロワット程度の原型炉を49年ごろ臨界に達せしめることを目途としている。
42年度は,その初年度として,高速増殖炉については,実験炉の1次概念設計が完了し,ひきつづき2次概念設計に着手するとともに,原研の高速炉臨界実験装置の完成により,これを用いて炉物理研究がすすめられた。このほか高速増殖炉の開発に必要なナトリウム工学,主要機器および部品,プルトニウム-ウラン混合酸化物系燃料,安全性等について研究開発が原研,動燃事業団を中心としてすすめられた。一方,新型転換炉については,原型炉の概念設計を終え,動燃事業団により第1次設計が原子力産業界に発注された。
 これと並行して,炉物理研究のために臨界実験装置の建設,あるいは熱除去実験のために熱ループの製作がすすめられ,また安全性の研究開発が原研等で行なわれた。
 さらに,動燃事業団では,原型炉の設計精度の向上に資するため,わが国の新型転換炉と同系統の重水減速蒸気発生型炉(SGHWR)の開発をすすめている英国原子力公社の技術情報を入手することとし,43年2月,購入契約を結んだ。


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