§5 米国原子力潜水艦ソードフィッシュ号の佐世保港寄港にともなう放射能調査
2原因の究明

科学技術庁は,5月6日午前の測定結果に関し,その原因を究明することを,5名の専門家に依頼した。
 専門家検討会は,5月9日,その第1回が開催されたが,翌10日から12日まで,このうち3名の専門家が現地調査のため派遣され,その調査結果にもとづき,5月13日,科学技術庁長官に対し,中間報告が行なわれた。
5月14日,原子力委員会は,この中間報告を考慮し,今回の異常値は人体に実害を及ぽすものではないが,従来見られなかった異常が今回認められた事実に注目し,本件に関し,次の見解を政府に対し申し述べた。
(1)この異常値の原因究明については,さらに調査検討をすすめるぺきである。
 その際,わが方の入手しうる資料には制約がある点にかんがみ,米国側に資料提供を求める等適切な方法を速かにとる必要がある。
(2)原子力軍艦寄港時における政府の放射能調査体制の整備強化をはかる必要がある。
(3)なお,現在,異常値について調査中であることにかんがみ,また,前項の体制の整備強化を図る必要があるので,その間,原子力軍艦の寄港が行なわれないよう善処すべきものと考える。
 その後,さらに広い分野からの検討を行なうため,5名の専門家が追加され,専門家検討会は,米国から派遣された専門家からの4回にわたる事情聴取を含め,5月27日まで合計9回にわたり開催された。
 専門家検討会による以上の検討結果は,最終報告としてとりまとめられ,5月27日,科学技術庁長官に提出された。その内容は次のとおりである。
(1)放射能以外の原因を究明するため5月10日より3日間現地において調査,実験を実施したが,放射能以外によるものとする疑問はほとんど解消した。
 したがって,今回の異常測定値は放射能によるものと考えるのが妥当である。
(2)ソードフィッシュ号以外の放射線源については,常識的に考えられるいくつかの原因について検討したが,異常測定値の原因となるものは見あたらなかった。したがって,ソードフィッシュ号から何らかの放射性物質の放出があったとの疑問を深めるに至った。
(3)この疑問を解明するためには,海水中の放射性物質の核種を確認するとともに,5月6日の異常測定値を合理的に説明しうる科学的な根拠を見出す必要がある。
 放射性物質の核種については,異常測定値が得られた直後の海水が採取されていないため,その確認を行なうことができなかった。
 また,今回の異常測定値の原因を解明するために,ソードフィッシュ号からの放射性物質の放出と,それに関連する諸事項について米国側に多くの質問をしたが,軍機に触れる点が多かったため科学的な解明に役立つデータの提供を受けることができなかった。
(4)したがって,今回の異常測定値は放射能によるものと考えるのが妥当であり,またその放射能の原因について種々検討したが,科学的にそれをソードフィッシュ号によるものと確認するには至らなかった。
 追記 米国側からは自らの調査の結果として,ソードフィッシュ号は今回の佐世保港寄港中,放射性物質は,一切放出しなかったことを確認したとの報告があり,とくに,一次冷却水は工作艦の電源を用いて定格温度に保っていたとの説明がなされた。この報告を裏付ける科学的説明および資料については,軍機に触れるものとして提供されなかった。


目次へ          第5章 第3節へ