第7章 放射線利用
§1 各分野における利用

3 工業利用

 科学技術庁原子力局は,41年8月,ラジオアイソトープおよび放射線発生装置の利用の実態を明らかにするとともに,将来の利用計画,利用上の問題点等を調査し,放射線の工業利用の推進に必要な基礎資料をうることを目的として,37年の調査にひきつづき,第2回目の放射線工業利用実態調査を実施した。
 これによると,放射線を利用している企業は,化学工業をはじめ,鉄鋼,機械,電機などの諸工業に及び,その普及も(第7-2図)にみられるように,大企業の多い業種においては,かなり高いとみることができる。
 これら企業における放射線の利用は,厚さ計,液面計などのゲージング利用が最も多く,163社に及んでおり,次いでラジオグラフィー利用の57社,トレーサー利用の43社,照射利用の16社の順となっている。

(1) ゲージング利用については,液面計,厚さ計が多く普及し,なかでも化学工業,紙・パルプ工業,ゴム工業,鉄鋼業における利用が顕著である。
 液面計は遠隔操作ができること,正確に測定できることなどの特徴を有し,化学工業における溶融ポリエチレンのレベル測定,繊維工業におけるナイロン, ビニロン等の合繊用高分子化合物の溶融状態におけるレベル測定,鉄鋼業における鉄鋼用キューポラのレベル測定等に主に利用されている。
 これら液面計の設置台数は,306台となっている。
 厚さ計は,非接触,連続測定が可能なので,とくに,鉄鋼業において熱間,冷間圧延中の鉄板の厚さ測定に威力を発揮している。このほか,紙・パルプ工業における上質紙,クラフト紙の厚さ測定,化学工業における塩化ビニールフィルムシート,セロファン等の厚さの測定,ゴム工業における圧延ゴムシート,窯業におけるガラス板の測定等に利用されており,その設置台数は206台となっている。
 このほか,ゲージング利用には,真空計が鋳造用真空溶解炉の真空度測定に,密度計が高分子重合物の密度測定や貯炭量の比重測定に,中性子水分計が貯炭の水分測定および鉄鋼焼結原料の水分測定に用いられており,それぞれの設置台数は,真空計32台,密度計95台,水分計40台となっている。
 37年度の調査に比較して,全般的に利用分野も拡大しており,とくに,トリチウム,プロメシウム-147を利用した分析計が新たに開発され,石炭の灰分,重油中の硫黄等の分析にすぐれた成果をおさめているのが注目される。
(2) ラジオグラフィーについては,鉄鋼業,機械工業等において,鋼管,バルブ等の溶接部分の検査およびそれらの材料の欠陥検査に用いられ,その設置台数は157台となっている。これらの欠陥検査は肉厚が大きいので放射線エネルギーの高いコバルト-60が主として用いられていたが,最近では,エネルギーが低いイリジウム-192線源が開発されて,パイプ溶接等の肉厚の薄い構造物の欠陥検査が行なわれるようになった。
(3) トレーサー利用については,鉄鋼業において,高炉炉壁の磨耗状況の調査,セメント工業におけるロータリ・キルン内部における原料の挙動調査,化学工業における各種化学反応機構の解明等が工程管理,製品の品質改善を行なうための基礎資料をうることを目的に実施されている。
 最近の傾向としては,クリプトン-85等の気体状のラジオアイソトープが化学プラントの性能検査に用いられている。
(4) 照射利用については,他の利用分野に比し少ないが,化学工業, 電気工業等においてコバルト―60線源あるいは各種の放射線発生装置を用いて,高分子化学製品の改良,シリコン,ゲルマニウム等の半導体の特性の改良,水晶の着色等が行なわれている。


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