第6章 原子力船

§1 原子力第1船開発基本計画改訂の経緯

 原子力第1船の建造については,昭和38年7月に原子力委員会が決定した「原子力第1船開発基本計画」,および,これにもとづいて38年10月に主務大臣である内閣総理大臣および運輸大臣が定めた「原子力第1船開発基本計画」にそって,日本原子力船開発事業団(事業団)において総トン数約6,000トン,主機出力約1万馬力程度,軽水冷却型原子炉を搭載し,実験航海終了後海洋観測船として利用できる原子力船を38年度から46年度までに建造することを目途に,その準備をすすめてきた。
 40年3月,事業団は,原子力第1船建造について,関係業者と契約交渉の結果,業者の見積り額は,さきに予算化された原子力第1船の建造費約36億円を大幅に上回って,約60億円に達する見こみとなり,なおかつ,そのなかには多くの不確定要素が含まれていたので,建造契約が不調に終った。
 このため,原子力委員会は,40年7月,原子力第1船の建造着手を若干延期し,さきに決定した前記開発基本計画の実施上の問題点について検討することになった。
 原子力委員会は,この問題点を検討するにあたり,学識経験者および関係各界の意見を求めることとし,40年8月以後,原子力船懇談会を開催し,基本計画等の再検討,船価低減の可能性の検討,輸入舶用炉の検討,長期資金計画の検討等について審議を求めた。
 一方,事業団においては,この審議に資するため,41年7月,船価比較のため,船体については石川島播磨重工業(株)に,舶用炉については三菱原子力工業(株)および米国のバブコック(B&W)社に再度舶用炉の見積りを行なわせた結果,国産舶用炉搭載船と輸入舶用炉搭載船との船価の間には大差はなく,船価はいずれも50億円を超える額であった。
 これは,主として計画立案当時における船価算定根拠に関する情報の不足等から,船価の評価が不正確になっていたこと,さらに,計画決定後における工費,間接費および材料費等の値上りから,船価が上昇したこと等の事情によるものである。
 同懇談会は,原子力第1船について,国産舶用炉の搭載は適当であり,その建造船価が50億円を超えることはやむをえないこと等を明らかにした。
 原子力委員会は,41年7月,国産舶用炉搭載船および輸入舶用炉搭載船の船価比較を検討した結果,国産技術を開発するためにも有利であるとの考えから,既定の方針にそって,国内技術を主体とする原子炉を搭載する原子力第1船の建造を推進すべきであることを確認し,また,本計画の遂行にあたっては,関係業界の積極的な協力が不可欠であり,舶用炉の設計および製作を効率的にすすめるためには,最小限度海外技術も活用することが必要であると考える旨明らかにした。
 この原子力委員会の方針にもとづき,運輸省および科学技術庁は,原子力第1船建造計画および所要資金の増大にともなう予算措置,その他について,関係方面と折衝を重ね,その結果,船種については,実験航海終了後は,海洋観測船として利用する当初の計画を核燃料,使用済燃料等特殊貨物の輸送船とする方針のもとに,大きさについても,従来の約6,000総トンであったものを約8,000総トン程度まで大型化する方向等で,検討をすすめることとした。
 原子力委員会は,41年8月,民間出資について,民間側と意見の調整を行ない,以上の検討の結果,原子力第1船の開発総所要資金が,当初見積られた約60億円から約108億円に増大したことにかんがみ,このうち,20億円を出資するよう要請し,その了承をえた。
 科学技術庁および運輸省における船種等の変更についての検討結果等を考慮し,原子力委員会は,42年3月,船価が大幅に上昇したこと,原子力船の実用化の見とおしがより明らかになったことなどの事情により,原子力第1船を実験航海終了後は,海洋観測船として利用できるものとして建造するという点を改め,特殊貨物の輸送船として利用できるものとし,昭和46年度完成を目途に,42年度から建造に着手することを明らかにし,さきに定めた原子力第1船開発基本計画の事業の大綱を次のように改定した。

原子力第1船開発基本計画の事業の大綱

(1) 船種および船型
 原子力第1船は,総トン数約8,000トン,主機出力約1万馬力,航海速力約16ノットとし,特殊貨物の輸送および乗組員の養成に利用できるものとする。

(2)搭載する原子炉の型式
 搭載する原子炉は加圧軽水冷却型とする。

(3)原子力第1船の建造
 原子力第1船は,昭和42年度に建造に着手し,昭和46年度末までに完成するものとする。

(4)乗組員の養成訓練
 原子力第1船の乗組員の養成訓練については,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等における基礎課程の講習,建造過程における工場実習およびでき得れば外国原子力船による乗船実習等の訓練を行なうものとする。
 養成訓練は,昭和42年度からはじめ,試運転前に完了するものとする。

(5)陸上付帯施設の建設
 原子力第1船の原子炉艤装,燃料交換等を行なうとともに,定係港として利用するため陸上付帯施設を昭和42年度に建設するものとする。

(6)実験航海および実験航海終了後の措置
 原子力第1船の完成後,約2年間慣熟運転および実験航海を行なう必要がある。
 実験航海終了後における原子力第1船の運航主体,陸上付帯施設等の利用については,慎重に検討の上,別途具体的に措置するものとする。
 42年度政府予算において,原子力第1船開発費として現金約10億円,国庫債務負担行為額約61億円が計上され,また,民間出資20億円についても,関係各界の了承がえられ,42年度からその建造に着手することとなった。


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