第3章 原子力発電

§1 原子力発電の進展

 昭和39年10月 ジュネーブで開かれた国際連合主催の第3回原子力平和利用国際会議の前後から,原子力発電の技術的,経済的見とおしは,ようやく世界的に明らかとなり,各国において原子力発電に対する関心が急速に高まってきた。
 とくに,米国における軽水炉の著るしい技術進歩と,これにともなう経済性の向上による原子力発電プラント発注量の急増,英国における自国で開発した改良型ガス冷却炉(AGR)に対するきわめて高い技術的経済的評価とこれにもとづく原子力発電計画の修正拡大等,わが国においても,これらの海外における動向から,原子力発電に対し,強い期待と関心が寄せられるようになった。なかんずく,米国で開発された軽水炉は,わが国においても,在来火力発電と十分経済的に競合しうるものと見こまれ,とくに,電気事業者の間にこの軽水炉による積極的な原子力発電所建設の気運が生まれるにいたった。このようにして,すでに,41年度には,日本原子力発電(株)(原電),東京電力(株)(東電),関西電力(株)(関電)の各社により,具体的に原子力発電所の建設がすすめられ,45年度までに運転を開始するわが国の原子力発電所の規模は,稼動中のものを含め,総計約130万キロワットにも及んでいる。
 この世界的な原子力発電の進展を背景として,41年度には国際機関をはじめ各国において原子力発電の長期開発見とおしが行なわれ,発表された。
 経済協力開発機構では,41年8月に総合エネルギー政策を発表し,世界の原子力発電設備容量の見とおしについて1970年(45年)に1,800万キロワット,1975年(50年)に7,500万キロワット,1980年(55年)に1億9,000万キロワットに達するものと想定し,また,米国原子力委員会も,41年6月,世界の原子力発電の設備容量は,1975年に9,100万キロワット1980年に2億2,500万キロワットに達するものと想定し,発表した。
 わが国においては,さきに民間において日本原子力産業会議により,35年間に及ぶ原子力発電の長期開発見とおしが,41年初めに発表されたが,41年度には,通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の答申が42年2月に行なわれ,そのなかで,原子力発電は, エネルギーの多様化に資し,燃料の輸送と備蓄が容易であり,かつ,外貨の負担が大幅に軽減されるなどの利点を有していることから,エネルギーとしてきわめて優れたものであるので,これを積極的に推進することとして,その開発規模は,45年度約130万キロワット,50年度約600万キロワット,60年度3,000万ないし4,000万キロワットとし,予想以上の経済性の向上等があれば,この規模を超えることも期待するとしている。
 原子力委員会はすでに述べたように,今回新たに策定した原子力開発利用長期計画において,原子力発電は,その有利性によって,低廉な準国内エネルギー源と考え,その将来におけるエネルギー供給上の重要な役割から,新規電源開発量のなかにしめる原子力発電の割合は可能な限り大きいことが望ましいが,最適な電源の組合せ等をも考慮すると,60年度におけるその発電規模を3,000万ないし4,000万キロワットと見こむことが適当と考え,また,この見とおしから,電気事業者の計画を勘案し,50年度における原子力発電の規模を約600万キロワットと見こむことは妥当なものと考えるとした。さらにこれらの見とおしについては,原子力発電に関する技術,経済性等の諸条件が予想以上に好転することも考えられるので,さらに拡大することも期待されるとし,上述の総合エネルギー調査会の答申とともに,わが国において原子力発電の実用化が急速に進展するすう勢にあることを明らかにした。
 なお,民間においては電気事業者による原子力発電所の建設見とおしとして毎年中央電力協議会により,向う10年を対象として電力長期計画が策定されるが,その41年度の計画において,新たに建設されるもので,50年度までに運転を開始する原子力発電所の規模は約573万キロワットに達するものと想定し,42年1月に発表した。


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