II 原子力委員会の計画および方針

11 動力炉開発の基本方針について

(原子力委員会は,41年5月18日定例委員会において,
次のような「動力炉開発の基本方針について」を内定し,これを発表した。)

1.基本となる考え方
 わが国経済の正常な発展を維持するには,低廉で,かつ,安定したエネルギー供給の確保をはかる必要がある。
 原子力発電は,その供給の安定性,経済性向上の見とおしおよび外貨負担上の有利性からみて,今後のわが国経済の成長を支える大量のエネルギー供給の有力な担い手となるものであって,その開発利用の意義については異論のないところである。
 原子力発電の実用化は,経済原則に従って進められるべきものであり,また,その開発利用を進めるにあたっては,わが国のおかれた環境に即し,そのエネルギー源としての有利性を最高限にいかすよう努めることが望ましい。
 わが国としては,そのような観点から適切な動力炉の開発および核燃料の安定供給と効率的利用をはかるための国内における核燃料サイクルの確立に努めるべきであり,政府はその早期実現を期するため,必要な施策の決定,推進をはかる必要があると考える。さらに,わが国の科学技術水準の向上と産業基盤の強化に資するため,上記開発は,可能なかぎり,自主的にこれを行なうことが肝要である。

2.動力炉開発の進め方

(1)核燃料政策
 核燃料は,当分の間,これを海外からの供給に依存せざるをえないので,現行国際協定の改訂等によりその確保をはかるものとする。
 しかしながら,今後に予想される核燃料所要量の増加にかんがみ,核燃料の安定供給と有効利用をはかることが特に重要であるので,国内資源の把握に努め,海外の資源を確保するための措置を講ずるとともに,国内における核燃料サイクルの確立をはかるものとする。
 国内において核燃料サイクルを確立するためには,早期にウラン燃料の加工および使用済燃料の再処理を国内において行ない,減損ウランおよびプルトニウムを利用することが必要である。
 ウラン燃料の加工事業については,民間が自主的にこれを行なうべきものとするが,政府は燃料国産化の促進の見地から,当面,在来型炉の燃料加工技術の開発について助成する。
 使用済燃料の再処理については,これを国内において行なうこととし,昭和46年完成を目途に,原子燃料公社(以下「公社」という)において再処理工場を建設するが,なお,将来は,民間においても行なわれることを期待する。
 プルトニウムについては,高速増殖炉への利用を最終目標とするが,その本格的利用までには長期間を必要とするので当面熱中性子炉(在来型炉および新型転換炉)への利用をはかるものとする。これらのための開発は,日本原子力研究所(以下「原研」という)および公社が中心となって行なうこととし,このうち,熱中性子炉への利用技術に関する研究については,昭和50年を実用化の目途とし推進する。
 上記のほか,将来新方式の再処理技術の実用化も予想されるので,これに必要な研究開発を行なう。また,将来においては,濃縮ウランの国内生産を行なうことも考えられるので,これに備えて必要な研究開発を行なう。これらの研究開発は,原研および公社が中心となって実施するものとする。

(2)動力炉の開発
 動力炉の開発は,前記のとおり,わが国エネルギー政策上の重要課題であるとともに,産業基盤の強化,科学技術水準の向上に重大な役割をはたし,産業構造高度化の支柱の一つとなるものと考えるので,わが国においても,可能な限り,自主的な開発を行なうことが必要である。
 高速増殖炉は,核燃料問題を基本的に解決し,かつ,将来,原子力発電の主流となるべきものであるから,その重要性にかんがみ,早期に自主的開発に着手するものとする。
 しかしながら,世界各国において,その開発が現在活発にすすめられているとはいえ,なお研究開発すべき要素も多く,その実用化の時期までは,15年ないし20年を要するものとみられる。
 新型転換炉は,高速増殖炉に比し,早期の実用化が考えられ,在来型炉に比し,核燃料の効率的利用および多様化等の観点から有利であるので,経済性のあるものを原子力発電計画にくみ入れることは,きわめて有意義であると考える。したがって,早期実用化に即応するため,海外技術を有効に吸収しつつ,適切な自主的開発に努めるべきである。
 在来型炉については,すでに海外からの輸入による建設が始められている軽水減速冷却型炉が今後当分の間わが国の原子力発電の中心をなすとみられるので,可及的速やかにその国産化が可能となるよう努めるものとする。
 以上の動力炉のうち,高速増殖炉および新型転換炉についてその開発を計画的,かつ総合的に推進するため,国のプロジェクトとしてとりあげ,各界の協力のもと総力を結集して,開発を遂行しなければならない。

(I)高速増殖炉
 高速増殖炉の開発にあたっては,基礎的技術の蓄積に努めるとともに,国際協力をも行なって,自主的開発の効率的推進をはかることが必要である。
 その実施にあたっては,臨界実験装置等による基礎的研究ならびに実験炉および原型炉の開発を推進するものとする。なお,実験炉は,将来,照射試験炉としても利用する。
 開発のスケジュールとしては,40年代の半ばまでに実験炉の,40年代の後半に原型炉の建設に夫々着手する。

(II)新型転換炉
 新型転換炉のうち,早期実用化の要請をみたし,かつ,天然ウランをも使用しうるものは重水減速沸騰軽水冷却型炉と重水減速炭酸ガス冷却型炉であると考えるが,まず,軽水減速冷却型炉の技術と経験の活用が可能であり,資本費低減の可能性をもつ前者を開発の対象としてとりあげることとする。
 開発のスケジュールとしては,40年代の半ばまでに原型炉の建設に着手する。

(III)在来型炉
 在来型炉については,早期にその国産化をはかる必要がある。この型式の炉の開発は,原子炉製造業者が技術導入によって行なうものであるので,その国産化および改良は,主として産業界の開発に期待する。政府としては,主として燃料および安全性に関する。研究開発について必要な措置を講ずるべきであると考える。さらに初期段階における在来型炉の国産化を促進するための資金,税制上の措置等を講ずるものとする。

3 開発体制
 高速増殖炉および新型転換炉の開発計画は,わが国としては,かつて経験のない大規模なプロジェクトであり,その実施にあたっては,長期にわたり,多額の資金と多数の人材を要するものであるので,この計画を円滑に遂行するためには,政府関係機関,学界および産業界の相互協力と積極的な参加が必要である。
 また,両型炉の自主的な開発から得られる諸成果と諸経験が関連業界の技術水準向上と動力炉の実用化による原子力発電の推進に大きく寄与するよう配慮されてなければならない。
 このような観点から,開発の実施にあたっては,国家資金を根幹とし,民間の積極的な資金協力をうるほか,さらに技術と経験の活用という見地から,民間技術者の参加協力を可能とするような体制をつくる必要がある。
 このため,高速増殖炉および新型転換炉の原型炉開発を担当する機関として,昭和42年度を目途に特殊法人の新設を行なうものとし,それまでの開発準備のための組織を原研に設ける。
 なお,新法人の設立に関連して,既存の関係開発機関の業務についても所要の検討を行なうものとする。


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