第5章 原子力施設の安全対策
§10 放射性廃棄物の処理,処分

1 放射性廃棄物の回収および処理

 放射性廃棄物は,ラジオアイソトープを輸入しはじめた25年から34年ごろまでは,その量もまだ微々たるもので,その一括回収機関もなく,各利用者が各自適当に貯蔵保管などしていた。その後,ラジオアイソトープの利用をはじめ原子力開発利用の進展にともない,放射性廃棄物の量は年々増大し,各事業所で貯蔵保管し得ないようになり,放射線障害防止のための安全確保の見地から,一括処理する体制の確立が必要とされるにいたつた。
 科学技術庁では,このため,34年度から放同協による原研以外の事業所からの放射性廃棄物回収事業に対し必要な助成を行なうこととし,40年度の補助金252万円を含め,これまで総計4146万円の補助金を交付してきた。
 放同協では,これにより施設等の整備をすすめ,放射性廃棄物の回収は順調に行なわれ,その一元的な貯蔵保管が行なわれている。しかし,保管されている廃棄物の処理は,いまだ行なわれていない。
 このような事情にかんがみ,放射性廃棄物の処理について実際の経験をもつ原研は原子力委員会が前年度に指示した構想にもとづき,40年2月アイソトープ事業部を発足させ,その業務の一部として,放射性廃棄物の処理を行なうこととなった。同事業部では,40年度に焼却装置等設備の整備を行ない,放射性廃棄物の処理,処分の業務を実際に開始する準備をすすめた。

2 放射性廃棄物の処理,処分に関する研究

 原子力委員会の廃棄物処理専門部会は,放射性廃棄物を合理的に処理するための方策を検討することを目的として設置され,36年以来の審議にもとづき,39年に,報告書を提出した。
 原子力委員会は,これを検討した結果,当面この報告書によって必要とされている放射性廃棄物の処理,処分に関する研究開発の推進をはかりつつ,今後,原子力開発の進展に応じて所要の方策をたてることとした。
 このようにして,40年度においても,原研,放医研などの国公立試験研究機関や研究費補助金,研究委託費等を受けた民間企業において,放射性廃棄物の処理,処分に関する研究が実施された。
 すなわち,低放射能レベル廃液の除染率の向上,スラッジあるいは有機廃液の除染率の向上,スラッジあるいは有機廃液の経済的処理方法,固体廃棄物の貯蔵および焼却,泡沫分離法等に関する研究が行なわれた。また,廃棄物の処分については,放射性廃棄物の処分に関する海洋生物の生態学的研究や海洋における放射性廃棄物の拡散,移動,混合に関する研究,海洋投棄用容器の研究などが行なわれた。


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