第5章 原子力施設の安全対策
§9 放射線障害防止の研究

 原子力の開発利用が積極的に推進される一方,原子力の特殊性からその安全対策に関する研究も精力的にすすめられなければならない。
 すなわち,すでに第2章において述べた原子炉施設等に関する安全性および安全系機器等の研究をすすめる一方,放射線障害防止に関する研究が広汎な分野にわたって強力に行なわれている。
 放医研は第4章における放射線の医学的利用に関する調査研究のほか,放射線による人体の障害ならびにその予防,診断および治療に関する調査研究を人体に対する放射線の影響の解明という観点から,人体の放射線被曝の様式,線量測定,放射線の生物学的効果とその作用機構,放射線障害の軽減とその治療等にわたって,幅広く物理学,化学,生物学,医学の各分野について,外来研究員制度を活用するなど大学,その他試験研究機関との密接な連携のもとに多様な研究を行なっている。
 以上の分野における経常研究のほか,その総合的研究体制の強化をはかるため,関連研究部が共同で実施する特別研究を設定して,研究の促進をはかっている。特別研究としては,38年度から3カ年計画により行なってきた緊急時対策に関する調査研究のほか,40年度から新たに5カ年計画でプルトニウムによる内部被曝に関する調査研究をとりあげた。
 緊急時対策については,主として事故時における大線量被曝者の診療に関し,基礎となる被曝線量の推定,甲状腺に摂取された放射性よう素の排出,放射線障害予防および治療薬剤等について調査研究を実施し,それぞれ一応の成果を収めている。
 放射線影響の研究分野に関しては,放医研のほか,大学およびその他試験研究機関において,文部省科学研究費による研究班等を中心に総合的に推進されている。国立試験研究機関においても原子力予算により鋭意すすめられている。
 最近においては,上述の放医研におけるプルトニウム内部被曝のごとき新しい研究領域が注目されているが,さらに従来から行なわれてきたエックス線,ガンマ線のような電磁波による影響に関する研究のほか,粒子線に関する研究にも関心がはらわれ,あらたに中性子線の生物学的効果に関する研究計画が検討されている。まず,40年度にはその遺伝学的影響に関する分野がとりあげられ,国立遺伝学研究所において中性子線による放射線誘発突然変異とその発生機構に関する調査研究がはじめられた。
 以上のほか,民間企業においても,原子力平和利用研究委託費および研究費補助金の交付を受けて,次節に述べる放射性廃棄物の処理処分に関する研究をはじめ,アイソトープの開発利用にともなう放射線障害防止に関し,白血病などの放射性血液病の発生防護剤の研究をはじめ各種の試験研究がすすめられている。


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