第5章 原子力施設の安全対策
§6 原子力従業員災害補償

 現在,わが国の原子力事業従業員災害補償については,「原子力損害の賠償に関する法律」(賠償法)および「原子力損害賠償契約に関する法律」(補償法)の対象から除外されており,既存の労働者災害補償制度によりおおむね処理されることになっている。
 しかし,放射線障害の特殊性を考慮するとともに従業員の一層の保護をはかるため,十分な検討を加える必要を認め,原子力委員会は,37年10月,原子力事業従業員災害補償専門部会を設置し,原子力従業員の原子力災害補償に万全を期するためどのような措置をとるべきかを諮問した。
 同専門部会は,検討結果を,40年5月,原子力委員会に答申した。
 その要点は,①国際条約〔原子力船運航者の責任に関する条約(ブラッセル条約)および原子力損害の民事責任に関する条約(ウィーン条約)〕を批准する場合に,賠償法は,これらに抵触するので改正すること,②労災補償の対象外の損害および労災補償額をこえる損害の賠償について,第三者にくらべて,従業員が不利益にならないよう賠償法を改正すること,③健康管理については,その疾病の特殊性にかんがみ,検査または記録保存のうえで十分な措置を要望する等である。
 原子力委員会は,答申を受け,40年6月,「原子力従業員の原子力災害補償に必要な措置について」次のように決定した。
① 原子力事業従業員の原子力損害は,原子力損害の民事責任に関するウィーン条約等国際協定の発効の見通しを勘案したうえで,賠償法にいう原子力損害に含めるようその改正を考慮するものとする。
② 答申書の内容のうち労働関係法令の改正およびその運用の改善を要するものについては,答申書の趣旨にそってその具体化をはかるものとする。
③ 原子力事業従業員の健康管理については,答申書の内容にそって,可及的すみやかにその改善をはかるものとする。


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