第5章 原子力施設の安全対策
§2 原子炉の設置と運転にともなう安全対策

1 原子炉安全解析のための気象手引の作成

 原子炉を設置する際に行なう安全解析では,敷地周辺の一般公衆に対する放射線の影響を評価することが,最も重要なことである。安全解析は,通常,想定事故時と平常運転時とについて行なわれるが,過去において行なわれた大型の研究炉および動力炉の安全解析では,いずれも気象が,放射線の影響を規定する重要な因子のひとつであった。このような事情から,原子力委員会は,39年7月,これまで原子炉立地審査指針(38年11月審議終了)を審議してきた原子炉安全基準専門部会を改組して,気象に関する事項にしぼり審議することにした。
 原子炉安全基準専門部会では,40年2月,第1回の部会を開催し,従来行なわれてきた気象関係の研究調査の成果,原子炉安全専門審査会における安全解析の経験などから原子炉の安全解析に必要な気象に関する基準をとりまとめる方針を決め,気象小委員会を設けて検討を始めた。以来,小委員会を8回,部会を5回開催して,審議を重ね,「原子炉安全解析のため気象手引」をまとめ,40年11月,原子力委員会に報告した。
 原子力委員会は,40年11月,同手引が,原子炉の安全解析を行なう場合に有益な指針となること,また,今後もひきつづき気象観測,気象解析の調査研究を推進することを決め,40年4月,原子炉安全専門審査会に対し,同手引きを今後行なう安全審査の際の参考とするよう指示した。
 気象手引は,従来取り扱つた大型原子炉の安全解析の経験に徴して,気象に関する事項をとりまとめたもので,想定事故用の気象,平常運転時用の気象およびこれらの解説よりなっており,このほか,安全解析に関連して,さらに研究調査すべき項目を掲げている。

2 原子炉の安全審査

 内閣総理大臣は,原子炉(臨界実験装置を含む)の設置または変更の処分を行なう場合,原子炉等規制法により,それが平和的利用,計画的開発利用,設置者の経理的基礎および技術的能力ならびに災害の防止等の許可の基準に適合しているかどうかについて,あらかじめ原子力委員会の意見を聞かなければならない。これに対し,原子力委員会は,原子炉安全専門審査会に原子炉の設置または変更に係る安全性に関して専門的に調査審議を行なわしめ,その報告を受けて,安全性以外の許可の基準についても審議したうえ,内閣総理大臣に答申することになっている。
 原子炉安全専門審査会は,36年以来39年度末までに26回開催された。40年度においては,11回開催され,原電敦賀炉,原研の材料試験炉(JMTR),高速炉臨界実験装置(FCA)などの審査を行なった。なお,40年度における審査会の審査状況は,(付録IV-3)のとおりである。

3 原子炉の設置許可および検査

 原子炉を設置し,または変更しようとする者は,原子炉等規制法にもとづき,内閣総理大臣の許可を受けなければならず,さらに建設工事の段階で工事の着手前に設計および工事の方法の認可,工事の施行過程および完成時に,施設検査および性能検査を受けなければならないことになっている。
 40年度において,新たに設置されることになった原子炉は,原研のJMTRおよびFCAの2基で,原電敦賀炉は,41年4月に許可された。なお,40年度末までに設置の許可(許可に類する安全性の確認を含む。)を受けた原子炉は,臨界実験装置を含め20基で,(第5-1表)に示すとおりである。

 40年度に設計および工事の方法の認可(変更許可を含む。)の対象になったものは,上記2基の原子炉に係るもののほか,原研 JRR-2の重水漏洩に係るもの,(株)東京原子力産業研究所原子炉の流通気体反応装置の設置に係るものなどがある。また,性能検査に合格したものは,40年1月に臨界に達した原研JRR-4(2500キロワット),40年10月に臨界に達した材料試験炉臨界実験装置(JMTRC,10ワット),重水の漏洩で修復を行なったJRR-2(1000キロワット)などがある。なお,40年5月に臨界に達した原電東海炉は,各種の試験検査(通商産業省の所掌)をへて,現在,最終段階である出力上昇試験を実施しているが,熱交換器に蒸気洩れが発生したので,補修を行なっている。
 このほか,同法により,原子炉の設置者は,保安規定の認可,毎年1回の原子炉の定期検査など一連の安全規制を受けており,40年度においてもこれらの業務が行なわれた。また,原電東海炉,原研(国産動力炉JPDR),JRR-2などの保安規定の変更が行なわれた。
 定期検査については,例年どおり各原子炉について実施し,安全性の確保に努めた。
 また,水戸原子力事務所は,東海地区にある熱出力1万キロワット未満の原子炉施設に係る設計および工事の方法の認可,施設検査,性能検査および保安規定の認可を所掌しており,40年度においても当該原子炉施設に対するこれらの業務を行なった。
 以上のほか,最近,2回にわたり原子炉等規制法関係の法令を改正し,規制の効果的実施に努めた。すなわち,40年11月に関係政令および総理府令を改正し,原子力船関係の規定を整備するとともに,原子炉の事故の場合の報告手続を改めた。さらに,41年4月には,総理府令を改め,原子炉の許可の場合の申請書記載内容を明確にし,申請書添付書類の変更を行なった。


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