第2章 原子炉の開発利用
§6 原子力船

1 経緯

 わが国が原子力開発利用に着手した当時から,造船,海運業界をはじめとする民間産業界では,原子力船の開発に強い関心を示し,原子力実験船の建造および運航に関し早急に構想をとりまとめるよう原子力委員会および関係当局に要望していた。
 原子力委員会は,このような情勢にかんがみ,原子力船に関する調査研究を推進するとともに,32年に原子力船専門部会を設置し,まず,原子力船開発の方針,具体的内容などの審議を求める一方,36年の「原子力開発利用長期計画」において,43年ないし45年までに「適当な仕様の原子力船」1隻を建造運航せしめるという構想を明らかにした。
 さらに,原子力委員会は36年に再度,専門部会を設置して,原子力船建造に関する基本的事項について審議を求めた。同専門部会では,翌37年にわが国の原子力第1船として約6000総トンの海洋観測船を建造し,その開発の主体として政府,民間共同出資による特殊法人を設置する構想をとりまとめ,原子力委員会に報告した。
 原子力委員会は,この報告を勘案して,原子力船を実際に建造し総合的研究開発を実施すべき時期が到来したと判断し,原子力第1船の設計,建造,実験運航および乗組員の養成訓練を目的とする日本原子力船開発事業団(事業団)の設立を決定し,38年,正式に発足させた。また,原子力委員会は,38年に「原子力第1船開発基本計画」を策定し,原子力第1船の設計と建造を可能なかぎり国内技術によって行ない,基本設計から試験運転終了までの期間を9カ年とし,その後適当な機関に,第1船を譲渡して,事業団は解散するものとした。
 事業団では,38年度に第1船の基本設計に着手し,39年度にはさらに要目細部の検討および安全性の評価を行ない,また,原子力船建造に必要な調査および内外関係者との意見の交換を行なって,40年初頭,見積仕様を作成し,建造契約に備えた。


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