第2章 原子炉の開発利用
§1 動力炉開発方針の検討

2 検討の経過

 原子力委員会は,総合エネルギー政策の観点からエネルギーの新しい担い手としての原子力発電がますますその重要性を増しつつあり,動力炉開発方針の確立が重要視されている事情にかんがみ,総合的な見地から在来型炉,新型転換炉および高速増殖炉の開発推進方策を再検討するため,39年10月に関係各界の学識経験者14名から構成される動力炉開発懇談会を発足させた。原子力委員会は,同懇談会において,第3回のジュネーブ会議(原子力平和利用国際会議)等でも明らかにされた世界各国における動力炉開発の成果と見とおしを反映させつつ,核燃料事情をも考慮し,在来型導入炉から高速増殖炉にいたる各種動力炉の研究開発計画の基本的な構想の検討を行ない,この検討にあたっては,政府および民間の役割,財政負担,技術者の確保,国際協力等についても考慮することとした。当初,同懇談会は,研究開発計画を中心に審議を行ない,40年4月に審議を終えることを目途として発足したが,動力炉開発がわが国の将来にとってきわめて重要であり,そのため各界の意見が多岐にわたつたこと,動力炉開発に関連して核燃料に対する考え方など広い分野にわたって検討を加える必要が生じたことなどのため,原子力委員会は,結論を急がず,さらに時間をかけて十分論議を尽くす必要があると考え,40年度もひきつづき同懇談会の審議をつづけることとした。
 同懇談会の審議において,在来型炉はわが国においても経済性の見とおしが明らかになりつつあり,民間電気事業者が導入を予定しているので,早急にその国産化を達成する必要のあることおよび高速増殖炉は将来の核燃料問題を根本的に解決しうる動力炉としてその開発を急ぐべきであることの2点については構成員の意見はほぼ一致した。ただ新型転換炉については,諸外国において,その開発がいちじるしくすすんでおり,近い将来これを導入しうるであろうと考えられること,現時点では,在来型導入炉よりも経済性の優れたものになるという見通しがはっきりしないこと,この開発を高速増殖炉と平行してすすめるには,わが国における資金的,人材的能力が不足であることなどからこれに反対し,諸外国における開発の進捗状況を静観すべきであるという意見が強く出された。
 しかし,この意見は,新型転換炉として,在来型導入炉の主流である軽水炉よりも燃料利用率がすぐれ,かつ,比較的短期間に研究開発を終えて実用化することができる炉型をとりあげ,わが国でその自主開発を行なうことは,わが国の原子力産業の技術水準をいちじるしく向上せしめると同時に,核燃料の有効利用および核燃料利用の多様化に資するところが大きく,これはエネルギー供給の安定化に大きく貢献するものであるという考え方と対立した。
 原子力委員会はこのような新型転換炉の開発および核燃料の有効利用に対する考え方をめぐる審議に一段階を画するため,それまでの審議を勘案して「動力炉開発の進め方について‐中間段階における‐」をとりまとめ,7月6日に開催された第12回動力炉開発懇談会にこれを示した。その大要は次のとおりである。
 原子力発電は,供給の安定性,経済性向上の見とおしおよび外貨負担上の有利性からみて,今後有力なエネルギー源となることは確実であり,その実用化に際しては,経済原則にのっとりこれをすすめるべきであり,わが国のおかれた環境に即したエネルギー源としてその有利性を最高限に生かすことが望ましい。そのため,核燃料の安定供給と効率的利用をはかるための国内における核燃料サイクルの確立および動力炉の自主的開発に努めるべきである。
 核燃料サイクルの確立については,核燃料の入手は当分の間海外にその供給を依存することに不安はないものと考えるので,国際協定の改訂等によりその確保をはかるものとする。国内における燃料サイクル確立のために,早期にウラン燃料の加工および使用済燃料の再処理を国内において行ない,さらにこれらにひきつづき適当な時期に減損ウランおよびプルトニウムの利用を行なうことが必要である。
 動力炉を自主的に開発するためには,各型式炉について,次の考え方で研究開発をすすめる必要がある。
 在来型導入炉については,早期にその国産化をはかることが望ましい。
 新型転換炉については,その経済性が在来型導入炉に比し有利となる可能性があり,核燃料の効率的利用をはかることができ,かつ,核燃料利用の多様化をはかることができるものを原子力発電計画にとりいれることが望ましいので,適当な1炉型を選定して研究開発を行なうことが必要である。
 高速増殖炉については,核燃料問題を基本的に解決するものであるので,その研究開発をすすめることが必要である。
 原子力委員会は,この考え方にもとづき新型転換炉および高速増殖炉を自主的に開発することとした場合の研究開発のすすめ方を技術的に検討するため,動力炉開発懇談会に新型転換炉ワーキンググループおよび高速増殖炉ワーキンググループを設けた。両ワーキンググループはそれぞれ所要の検討を行ない第13回動力炉開発懇談会に中間報告を行なった。
 一方,原子力委員会は,動子炉開発のすすめ方の検討に資するため,諸外国の動力炉開発状況を調査する目的で,動力炉開発調査団を海外に派遣することとした。同調査団は20名で構成され,10月16日から約1カ月にわたって,西ドイツ,イタリア,フランス,英国,米国およびカナダの諸国ならびに関係国際機関を歴訪し,各国における新型転換炉および高速増殖炉の開発状況について国際協力の実態を含め調査を行なった。
 同調査団の報告書は,第14回動力炉開発懇談会に提出された。この報告書により,高速増殖炉は各国とも非常な熱意をもつてその開発をすすめており,わが国でもその開発を急ぐ必要のあること,新型転換炉は,各国の国情に即した炉型の開発が鋭意すすめられており,わが国においてとりあげる炉型としては重水減速沸騰軽水冷却炉および重水減速ガス冷却炉が有望であること,国際協力は各国相互間で密接に,しかも流動的に行なわれていることなどが明らかにされた。
 新型転換炉ワーキンググループおよび高速増殖炉ワーキンググループは,さらにこの報告を勘案して,検討を重ね,それぞれ報告書をとりまとめ,高速増殖炉ワーキンググループは第15回動力炉開発懇談会に,新型転換炉ワーキンググループは,第16回動力炉開発懇談会に,報告した。
 高速増殖炉ワーキンググループの報告では,高速増殖炉が核燃料問題を根本的に解決する点で理想的な動力炉であり,諸外国においてもその実用化の時期がかなり早いと予想されていることから,将来の高速増殖炉の国際競争時代に備えて早急に国のプロジェクトとしてとりあげ,その開発をすすめるべきであるとしている。開発スケジュールとしては,43年度に実験炉の建設を開始し,47年度に原型炉の建設に着手することを提案している。
 新型転換炉ワーキンググループの報告では,核燃料の有効利用,核燃料利用の多様化,高速増殖炉用のプルトニウムの生成などの燃料サイクル上の意義および動力炉技術の海外依存からの脱却などの自主開発の意義との両方から,50年代初期に実用炉を建設することを目途として研究開発をすすめるべきであるとしている。開発スケジュールとしては,44年に原型炉の建設を開始することとし,炉型としては,動力炉開発調査団の報告と同様に,重水減速沸騰軽水冷却炉および重水減速炭酸ガス冷却炉が適当であろうとしている。
 両ワーキンググループの報告書の提出により,動力炉開発懇談会の審議は最終段階にはいり,新型転換炉の開発意義,高速増殖炉と新型転換炉開発の相互の調整,開発体制,資金などについて検討が行なわれた。原子力委員会は,これらの結果をとりまとめ,「動力炉の開発の進め方について」として動力炉開発の基本的な考え方を第18回動力炉開発懇談会に提示した。そのうち,在来型導入炉,新型転換炉および高速増殖炉の開発方針は次のとおりである。
 在来型導入炉については,産業界の自主的な開発により国産化を推進する。
 高速増殖炉については,国際協力を活用しつつ,自主的な開発を推進し,開発スケジュールは原則として高速増殖炉ワーキンググループ報告書に示された案によることとなる。
 新型転換炉については,国のプロジェクトとして,海外の技術を有効に活用するよう留意しつつその開発を推進し,重水減速沸騰軽水冷却炉を対象とする。開発スケジュールは新型転換炉ワーキンググループ報告書に示された案によることを目標とする。
 開発体制としては,高速増殖炉および新型転換炉の両開発計画の実施機関として,42年度を目途に特殊法人を新設するものとし,それまでの開発準備のための組織を原研に設ける。開発の実施にあたっては,関係各界の資金的,人材的協力を期待する。
 この考え方は,同懇談会においておおむね了承された。原子力委員会は,これにもとづき,動力炉開発計画を策定するための審議をすすめ,41年5月18日,第1章第3節(15頁)に述べたとおりの動力炉開発の基本方針を内定した。原子力委員会は,関係各方面と協議のうえ,早急にこれを正式決定し,これを政府の重要施策として確立し,推進することを強く望んでいる。
 原子力委員会の動力炉開発方針の検討に対応して,衆議院の科学技術振興対策特別委員会では,40年5月,動力炉開発に関する小委員会が設けられ,動力炉開発の促進方策について,立法府として国民的要請の立場に立ちつつ検討がすすめられてきた。同小委員会では,その検討結果を小委員長報告としてとりまとめ,41年5月12日,科学技術振興対策特別委員会にこれを報告し,了承された。この報告においても,総合エネルギー政策における原子力発電の役割は高く評価すべきであるとし,原子力の研究開発はたんなる産業政策にとどまることなく,国の科学技術政策の重要な一環であることに留意しつつこれをすすめるべきであること,動力炉開発計画は燃料政策の観点から新型転換炉から高速増殖炉へと向う一貫性のあるものでなければならないこと,動力炉の開発体制について再検討を行なうべきであることなどがとくに指摘されている。さらに,動力炉開発の重要性にかんがみ,原子力委員会および政府はすみやかに動力炉開発方針を決定し,開発計画を策定して強力にこれを推進することが要請されている。
 原子力委員会は,このような要請にこえるため,動力炉開発を鋭意推進する予定である。


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