第1章 総論
§6 放射線の利用

 放射線の利用は,工業,医学,農林水産業等広範囲にわたっており,かつ,最近はその利用方法もますます多岐多様なものとなっている。これらの放射線を使用する事業所数は,40年3月末において,1321に達している。
 原子力委員会は,40年度においても各分野における放射線利用に関する研究の促進をはかり,とくに食生活の向上と食品の流通機構の改善をはかることを目的とする放射線照射による食品の保存,殺菌の実用化方策の検討を開始するとともに,アイソトープの生産,頒布,廃棄物処理事業等を一貫して行なう原研アイソトープ事業部の整備を行なった。
 工業の分野では,放射線化学の研究開発面に一段の進歩がみられ,原研高崎研究所においてエチレンの高重合中間規模試験に成功するとともに国公立試験研究機関,民間企業等において新製品開発の努力がはらわれた。
 また,放射線測定器,粒子加速器等の放射線利用関連機器の国産化が急速にすすめられた。
 医学の分野では,核医学が医療用計測機器の精密化,短寿命アイソトープおよび標識化合物の国産化とともに急速な進展をみせ,また癌などの悪性腫瘍に対する放射線治療技術の開発にともない,コバルト-60,セシウム-137などの放射線照射装置の全国的な普及が促進された。
 農林水産業の分野では,植物の品種改良や施肥法などの研究が行なわれ,の成果は着実に実際面に応用されており,40年度には,食品照射に関する研究が各方面の協力のもとに行なわれることが検討された。
 ラジオアイソトープの供給は,現在主として輸入に依存しているが,原研のJRR-3の整備がすすみ,また同研究所のアイソトープ事業部の強化がはかられるに従って国産アイソトープの生産も増大しつつある。


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