§3 原子炉の設置と運転にともなう安全対策

1.原子炉等規制法の一部改正

 内外における原子力船の開発の状況については総論で述べたとおりであるが,各国においても,原子力船の安全性の確保について遺漏のないよう規制を加えつつ,開発の推進をはかっていることはいうまでもない。
 わが国においても,従来,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)にもとづき,原子炉の設置にあたっては内閣総理大臣の許可を要することとして,その安全性の確保に努めてきた。したがって,船舶に設置する原子炉についても,本邦の領域内において原子力船を建造する場合には,その設置する原子炉について,原子炉の設置許可に関する規定による取扱いをすることとしているのであるが,すでに外国において外国人等により原子炉を設置した原子力船が,本邦の水域に立ち入る場合の原子炉の規制に関する規定に欠けていた。
 しかしながら,従来,関係各国間において検討され,原子力船の運航に関する事項を定めていた「1960年の海上における人命の安全のための国際条約」が漸く39年5月26日には発行の運びとなり,一方,米国のサバンナ号のごとく外国の原子力船がわが国を訪問する事態も予想されるので,政府としてこのような状況に対し,本邦における外国原子力船の規制をはかるとともに,この機会にあわせて国内原子力船についても,入港の際の規制をあらたに加えることとし,その改正法律案を40年3月第48国会に提出した。
 改正の第1点は,40年5月に発効する「1960年の海上における人命の安全のための国際条約」 (第7章§3を参照)において,自国政府の承認をえた安全説明書等が原子力船の訪問する相手国政府に提供されて,その安全審査をうけるべきものとされ,外国原子力船の規制に関する取扱いが明確にされたので,わが国でも外国原子力船の日本立寄りにともない,本邦内における原子炉の保持を,原子炉の設置の場合と同様に内閣総理大臣の許可事項とし,許可の際に原子力委員会においても,その安全性の審査を行なうほか,万一原子力損害が発生した場合に必要な損害賠償等についても審査を行なうこととしている。
 改正の第2点は,国内の原子炉設置者および外国原子力船運航者が原子力船を本邦の港に立ちいらせる場合,その港の自然環境,社会環境等により停泊地の選定,出力制限等災害を防止するための各種措置が必要とされるので,入港前にあらかじめ内閣総理大臣にこれら措置の内容を届出させることとしている。内閣総理大臣は,その措置の内容を十分審査のうえ,災害防止上必要のある時には,原子力船の側において講ずべき措置にかかる事項を運輸大臣に通知し,この通知を受けて運輸大臣は,国内の原子炉設置者または外国原子力船運航者に対し,災害を防止するために必要な措置を命ずるとともに,港長等に対しても,当該原子力船の航行に関し,必要な規制をなすべきことを指示することとしている。さらに本改正法律案の付則において港則法を改正し,港長等は,運輸大臣の指示があったとき,または災害を防止するため必要があると認めるときは,原子力船に対し,各種の具体的措置をとらせることとした。
 この改正法律案は,衆議院科学技術振興対策特別委員会および衆議院本会議を40年4月に,参議院科学技術振興対策特別委員会および参議院本会議を同年5月に通過し,成立した。


目次へ          第5章 第3節(2)へ