§1 工業利用

 工業面における放射線の利用は,機械,金属,化学,パルプ,繊維,その他の各方面に広く普及しており,その用途も厚さ計や液面計などの計測,制御をはじめラジオグラフィーや各種工程の解析など多岐にわたっている。一方,最近,放射線化学の工業化のための研究開発がすすんでおり,その実用化も近いとみられている。このように放射線の工業利用は,今後いよいよ本格化するものと期待される。
 従来,大学,国立試験研究機関等で放射線化学の基礎研究ないし応用研究が行なわれてきたが,37年度に原研高崎研究所が設立され,放射線化学の大規模な工業化試験が行なわれることとなった。
 原研高崎研究所は,38年度に整備されたコバルト線源中間規模試験室および加速器中間規模試験室を利用して,39年度には繊維のグラフト重合およびエチレンの高重合の2テーマにつき中間規模試験に入ったほか,あらたに固相放射線重合反応(トリオキサンの放射線重合)およびプラスチックスの放射線による改質の2テーマをとりあげた。施設の面では,300万電子ボルトのコッククロフト・ワルトン型加速器の発注を行なったほか,コバルト線源中間規模試験室の線源整備3箇年計画の2年めの分として10万キュリーを発注し,また,研究棟およびラジオアイソトープ工学試験室の建設に着手した。
 組織面では,放射線化学研究室および原子炉利用研究室が新設され,人員の増加が行なわれた。
 国立研究機関では,工業技術院その他の試験研究所が,放射線化学の応用面における開発研究を行なってきた。名古屋工業技術試験所(名工試)では,39年度に3万5000キュリーのコバルト60照射施設の建設がすすめられた。資源技術試験所では,石油類の化学反応に対する放射線照射の影響などの研究が行なわれている。また農林省林業試験所では,各種モノマーグラフト重合による木材の改質の研究等が行なわれている。
 その他,民間企業においても有望な実用化研究が行なわれている。


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