§1 動力炉開発

3.動力炉開発懇談会

 原子力委員会は,39年10月,動力炉開発懇談会の開催を決定した。これは,前に述べた原研の国産動力炉開発計画の進行状況と,他面,第3回原子力平和利用国際会議において明らかにされた各国の意欲的な動力炉開発状況とを考慮して,あらためてわが国の動力炉開発の在り方について,学識経験者等の意見を求めることとしたものである。
 動力炉開発懇談会は,最近の世界における核燃料事情および各国における動力炉開発の成果とその見通しを考慮しつつ,わが国の総合エネルギー政策の立場から,在来型導入炉,新型転換炉および高速増殖炉の一連の開発推進方策を全般的に再検討することを目的としている。また,検討にあたっては,動力炉開発における政府と民間との役割,財政負担,技術者の確保,国際協力等についても考慮するとともに,開発の体制,規模およびタイムスケジュールの面では,関連する各種の研究計画における相互の関連性についても配慮することとした。
 動力炉開発懇談会は,原子力会委員のほか,14名の関係各界からの学識経験者等によって構成されており,その第1回の会合が,10月29日に開催されてから40年3月までに6回開催された。
 動力炉開発懇談会において審議された内容は多岐にわたり,とくに構成員の意見がその属している立場に応じておのおの異なっていることもあって,審議継続中の段階において懇談会としての意見を要約することはきわめて困難である。しかし,これまでになされた主要な論議の大筋をたどってみると,大略つぎのとおりである。
 まず最初に,第3回原子力平和利用国際会議において発表された最近の世界における核燃料事情をもとにして,新型転換炉が実用化されないとして,軽水型炉から直接に高速増殖炉に連なる開発コースをとった場合の問題点の検討がなされた。その問題点としては,将来における世界のウラン埋蔵量の見込みにも関係するが,高速増殖炉が実用化される1985年ごろには,安価なウランの資源が不足することになることが考えられる。あるいは,ウラン資源が不足しないとしても,軽水型炉で副次的に生産されるプルトニウムの蓄積量が,たとえば重水減速型炉で生産される量よりかなり少ないことから,そのプルトニウムで運転できる高速増殖炉の総発電容量もより小規模になることが考えられるとの意見が述べられた。
 また,「動力炉開発方針の審議にあたっての核燃料利用についての考え方(原子力委員会試案)」において,国内での核燃料サイクル・モデルが示された。これには,1970年代の中ごろまでは,天然ウランはもちろん,濃縮ウランについても,その供給を海外に依存することに不安はほとんどないことが前提とされている。そして,わが国が核燃料の供給を海外に依存するとしても,使用済燃料の再処理体制と国内燃料加工事業を確立し,また,減損ウランとプルトニウムを実証ずみ発電炉で利用することを考慮すべきであるとの考え方が述べられている。
 懇談会は,40年4月ごろまでに一応の考え方をまとめることを予定して開催されてきたが,その審議をより効率的にすすめることを意図して,「動力炉開発のすすめ方(原子力局試案)」が提出された。その内容は,つぎのとおり要約される。
 すなわち,在来型導入炉の国産化および改良については,民間企業の自主的な開発を期待するが,政府は,原研の動力試験炉(JPDR)と材料試験炉(JMTR)の利用を通じてこれに協力し,また安全性の研究および核燃料の国産化研究などを通じて民間企業を援助する。
 わが国で開発する新型転換炉としては重水減速型炉が適当である。また,その開発にあたっては,早急に実用化の道をひらくことに重点をおくこととし,電気事業者が中心となり,これに製造業者が参加し,海外から設計図面等の技術情報を入手してはじめから原型炉を建設する。これと並行して,これを実用炉に結びつけるための設計・製作に必要な技術を原研のJMTR等の諸施設を重点的に活用し製造業者が中心となって開発する。
 高速増殖炉の開発については,基礎研究から実用化までの研究開発方針を策定することとするが,その開発の具体的実施にあたっては,国際協力を積極的にすすめる。また,当面,実験炉あるいは原型炉の建設に関する技術の研究および設計研究を行なうが,この段階においては原研が中心となって研究開発を行なう。
 この「動力炉開発のすすめ方(原子力局試案)」に対しては,各構成員から多くの批判が寄せられた。それらの批判のうち主なものとしては,つぎのようなものがあった。
 在来型導入炉の国産化にあたっては,民間企業の自主的開発のみに期待することなく,政府は資金を投入して積極的に製造業者を育成する必要がある。
 新型転換炉については,ここしばらくの間,海外での動向をも見守りつつ十分検討することがのぞましい。もし,新型転換炉をわが国で開発するとした場合には,研究開発を行なう要素の多く残されている炉型を選択すべきである。また,その開発にあたっては,長期の研究開発期間と多額の研究費の投入を要し,かつ,多方面の協力を必要とすることにかんがみ,政府が主体となって開発すべきである。
 高速増殖炉については,当面,長期計画を具体的に策定することは困難ではあろうが,わが国としても積極的に研究開発を行なうべきことについては賛成である。
 また,懇談会の審議については,結論を急がずさらに時間をかけて十分論議をつくす必要があるとの意見が述べられ,当分,懇談会を開催して,問題点の検討をつづけることになった。


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