§2 わが国の原子力開発の概況

7.安全確保への努力

 原子力の開発と利用がすすむにつれて,原子力関係施設の従事者および一般国民の安全確保をはかることはきわめて大切なこととなる。放射線審議会は,放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一をはかることを目的として総理府に設置されており,39年度において,国際放射線防護委員会の勧告を審議するとともに,原子力船および原子力設備に関する放射線障害防止に関する技術的基準,放射性物質の航空機による輸送基準,大量放射線事故に対する応急対策の放射線レベルなどについて審議を行なった。原子力委員会廃棄物処理専門部会は放射性廃棄物の処理処分について審議し答申を行ない,原子力船安全基準専門部会は原子力船の港湾等における運航の方法,停泊の条件等に関する基本的な技術基準の検討を開始した。
 このように安全確保のための努力がつづけられているが,39年度中とくに大きな動きとして,「核原料物質,核燃物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)の一部改正および米国原子力潜水艦の寄港の問題とについてつぎに述べる。

 原子炉等規制法の一部改正
 原子力船の運航に備えて関係各国で署名され,わが国もすでに批准している「1960年の海上における人命の安全のための国際条約」(海上人命安全条約)は40年5月に発効の運びとなった。同条約は,原子力船が外国を訪問する場合,自国政府の承認をうけた当該原子力船の安全説明書を相手国政府に事前に提出して,その審査をうけなければならない旨を規定している。
 わが国においては,原子炉等規制法にもとづいて船舶に原子炉を設置する場合には内閣総理大臣の許可をうけなければならないこととしているが,外国原子力船に対する取扱いの規定を欠いていた。
 政府はこのような状況に対処し,わが国における外国原子力船の規制とあわせて国内原子力船についても入港の際の規制をあらたたに加えるため,40年5月,この法律の改正を行なった。
 改正の要点は,外国原子力船がわが国に立ち入ろうとする場合,あらかじめ内閣総理大臣の許可をうけなければならないこととし,その際に原子力委員会において海上人命安全条約に規定された安全説明書等にもとづいてその船の安全審査を行なうことを定め,また,すべての原子力船がわが国の港湾に入港しようとするときは,あらかじめ届出なけばならないこととし,この際,政府は原子力災害防止の見地から所要の措置を講ぜしめることとしたことである。

 米国原子力潜水艦の寄港
 38年1月に米国から原子力潜水艦のわが国への寄港について申し入れがあって以来,原子力委員会は,原子力潜水艦が国際法上軍艦としての特殊な地位を有するものであるとの前提にたって,とくに安全性の問題について慎重に検討し,日米両国政府間における交渉を通じて,わが国民とくに寄港地周辺の住民の安全を確保するために必要な措置を明確にし,その措置に遺憾なきを期するための努力をつづけてきた。
 39年8月,米国は,それまで日米間において照会回答された諸点をまとめた覚書と米国原子力潜水艦がわが国に寄港するにあたり,順守すべき諸措置を示した声明を送付してきた。原子力委員会は,これら文書を慎重に検討した結果,これら文書に含まれた米国政府の保証がそのとおり確保されるならば,原子力潜水艦の寄港は,わが国民とくに寄港地周辺の住民の安全上支障はないものと判断し,8月28日,この旨を政府に申し述べた。政府は,原子力委員会の見解にかんがみ,米国原子力潜水艦の安全性について確信をえるにいたったので,同日閣議を経て米国原子力潜水艦のわが国寄港に異議ない旨を米国政府に同答した。
 一方,政府は,科学技術庁を中心として,原子力潜水艦の入港が予定されている佐世保および横須賀の港湾について,原子力潜水艦入港による放射能変化の調査を行なうこととし,その体制を整えた。
 米国原子力潜水艦は,39年11月および40年2月の2回,佐世保港に入港し,数日間停泊した後出港した。
 放射能調査は計画どおり行なわれ,その結果,原子力潜水艦入港による環境放射能レベルの異常は認められなかった。


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