第7章 国際協力
§3 国際原子力機関の保障措置

 38年度は,日米協定にもとづく保障措置の国際原子力機関への移管のための協定の発効,国際原子力機関保障措置制度を大型原子炉に拡大して適用することの決定,国際原子力機関保障措置制度の全般的再検討の開始等国際原子力機関の保障措置に関する重要な動きが見られた.その概要は,次のとおりである.
 わが国が原子力の平和利用に関して締結している3つの2国間協定(日米協定,日英協定および日加協定)は,これらの協定にもとづき2国間において移転された原子炉,核物質等が軍事目的に転用されないよう供給当事国の保障措置の下におく旨を規定するとともに,この保障措置の実施を供給当時国から国際原子力機関へ移管することを規定している.
 国際原子力機関憲章は,第3条Aにおいて保障措置を決定し,実施することを同機関の主要な任務の1つと規定している.同機関は,憲章の規定にもとづき36年1月の理事会において,保障措置実施のための手続規則(以下「保障措置規則」という.)を採択した.これは,熱出力10万キロワット未満の原子炉,これに使用される核物質等に対する保障措置実施手続きを定めたもので,主として研究用原子炉を対象とするものであった.
 このような同機関の保障措置実施態勢の整備に対応し,わが国は,前述したとおり2国間協定にもとづく保障措置の実施を同機関に移管することとし,36年4月日米協定および日加協定にもとづく保障措置の移管について同機関事務局に申し入れを行ない,日米問および日加間において,それぞれ,保障措置移管協定についての協議を開始した.
 日米保障措置移管協定については,38年4月,日米間の交渉を終了し,その後同機関事務局を交えた3者交渉を行なった後,同年6月の同機関理事会に提案しその承認を得た.さらに,同年8月同機関事務局との間において保障措置の実施細目について協議を行なった後,同年9月23日ウィーンにおいて,日本,米国および国際原子力機関との間で日米保障措置移管協定の署名が行なわれ,同年11月1日から発効した.同協定は,2国間協定にもとづく保障措置の実施を全面的に同機関に移管したもので,世界においても最初のケースとして注目される.同協定の実施は,その後円滑に行なわれており,同機関視察員による第1回通常視察は,39年5月に実施された.
 日加保障措置移管協定については,日加間において交渉が進展しつつあり,近く日加間の交渉を終えて,国際原子力機関を交えた3者交渉に入る予定である.
 日英協定にもとづく保障措置の国際原子力機関への移管については,38年2月同機関事務局に申し入れを行ない,その後,日英間で日英保障措置移管協定について予備的協議が行なわれた.
 前述のとおり,36年1月国際原子力機関理事会で採択された保障措置規則は,研究用原子炉を主要な対象としたものであったが,最近における世界の発電用大型原子炉開発の進展にともない,保障措置規則を熱出力10万キロワット以上の原子炉にも拡大することが要請されるにいたった.そのため,国際原子力機関においては,保障措置規則を大型原子炉にも拡大することとし,それを検討するための特別作業委員会が38年2月組織された.わが国は,諸般の事情から同委員会に参加することができなかった.同委員会は,保障措置を大型原子炉に拡大するための規則案(以下「拡大規則案」という.)を作成し,これは,同年9月の第7回総会を経て39年2月の理事会において採.択された.
 拡大規則は,研究用原子炉についてとられた保障措置実施の考え方をそのまま大型原子炉についても同様に採用している.前述の日英保障措置移管協定が締結された場合において,日本原子力発電(株)が現在東海村に建設中の英国から導入した発電第1号炉がその適用対象となるので,拡大規則にもとづく保障措置の実施は,わが国としては特に関心のあるところである.東海村の発電第1号炉は,商業用発電炉として運転されることを考慮し,39年2月の理事会における拡大規則の採択に際し,わが国は,拡大規則の実施に当たっては商業用発電炉の経済的運転に不必要な支障を与えないよう十分留意するよう要望した.
 国際原子力機関理事会は,39年2月の拡大規則の採択に際し,わが国の表明した要望等を含めて保障措置制度の全般的再検討を行なうこととし,そのための作業委員会の設置が決定された.この委員会は,わが国も含めた理事国の代表から構成され,各国からの提案を基礎に保障措置制度全般の再検討を行なうこととなっている.


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