第6章 放射能対策
§3 放射能調査および対策研究

 放射能調査は,37年度にひきつづき,国立試験研究機関,都道府県衛生研究所等において概要次のように行なわれた.大気中の放射能調査のうち,雨水および地表付近の浮遊塵の全放射能測定は,気象庁観測所で,雨水,落下塵の核種分析は,同庁気象研究所で行なわれている.また,成層圏における浮遊塵中の放射能については,ジエット機により採取されたものを防衛庁技術研究本部に集め,同所において全放射能の測定および分析が行なわれている.陸上における放射能調査としては,都道府県衛生研究所が上水,天水,土壌等について測定し,社団法人分析化学研究所において核種分析を行なっている.食品の放射能については,主として24の都道府県において全放射能の測定を行ない,社団法人分析化学研究所等が,核種分析を行なっている.海洋の放射能調査としては,海水については海上保安庁水路部および気象研究所が,海洋生物については水産庁東海区水産研究所が,それぞれ核種分析を行なっている.人体の放射能については,各地で収集した人骨,筋肉,臓器および尿の核種分析を放射線医学総合研究所および厚生省国立公衆衛生院で実施している.これら調査の結果は,放射能対策本部から「環境および食品等の放射能汚染」として,次のとおり発表されている.
 雨(および雪)の全放射能は,38年後半には大幅に減少し,その後ほぼ横ばいである.ストロンチウム90の降下積算量は,38年9月末で52.1mc/km2に達した.なお,ストロンチウム90の月間降下量は,38年6月の4.59 mc/km2を最高としてその後は減少している.放射性降下物による空間線量は,38年秋以降はきわめて低い値を示しているが,その原因は放射性降下物中のジルコニウム95-ニオブ95およびヨウ素131など中短寿命核種が減少したためと思われる.牛乳および野菜中のストロンチウム90は,38年6月および7月に最高の値を示し,その後は下降している.なお,これらの詳細は(付録VI-2表)に示すとおりである。
 また,放射線医学総合研究所では,内外の放射能水準に関する調査資料を適確に把握し,総合的な解析を行ない,これらの情報を迅速に提供することにより,わが国における放射能対策およびこれに関する研究に役立てる目的のため,38年度から放射能データセンダーを設置した.同センターは,わが国における放射能測定結果,研究結果などを収録した資料集(Radioactivity Survey Data in Japan)を作成し,海外機関ならびに国内関係機関に配布した.他方,対策研究については「放射線源による人体被曝線量ならびに人体に及ぼす影響に関する研究」,「ストロンチウム90,セシウム137等の排泄と栄養成分との関係に関する研究」,「比較的短寿命の放射性核種による環境汚染の生物地球化学的研究」,「作物における放射性降下物の中ストロンチウム90の吸収抑制に関する研究」,「漁業生物のラジオアイソトープ蓄積,浅海増殖生物除染の研究」などが放射線医学総合研究所,その他の国立試験研究機関で行なわれている.また,38年度から放射能調査対策研究委託費により,民間および公立研究機関の放射能調査対策研究を助成することになり,同年度は,①財団法人放射線影響協会に乳幼児の被曝線量の算出および放射性物質による乳幼児の障害防止に役立たせるため「乳幼児対策に関する調査研究」を,②大阪府に環境汚染に関し放射性汚染の物理的化学的諸性質を明らかにするため「放射能対策に関する基礎的調査研究」を,また,③財団法人日本乳業技術協会に牛乳中のストロンチウム90,セシウム137の除染法を確立するため「放射能除染設備に関する調査研究」を委託した.
 これら放射能調査研究の成果は,科学技術庁が主催する放射能調査研究発表会で発表されており,38年度においては,第5回発表会が放射線医学総合研究所で,11月開催された.発表は,環境,食品,人体等の放射能レベル調査,被曝線量に関する調査研究および放射能対策に関する研究について行なわれ,提出論文は67論文(うち口頭発表49論文)の多数にのぼった.これら論文は,従来に比し研究的なものが多く,とくに放射性降下粒子の物理的,化学的諸性質および放射性降下物の落下機構等の解明ならびに食品汚染の対策に関する研究等に多大の収獲が得られ,かつ,海洋汚染に関する研究についても有意義な発表が数多く行なわれた.
 この発表会に提出された論文の題目は,(付録VI-3表)に示すとおりである.


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