第5章 放射線安全
§2 原子炉の設置,運転にともなう放射線安全

1.原子炉安全専門審査会

 現在わが国において原子炉を設置しようとする者は,原子炉規制法により,内閣総理大臣の許可を受けなければならない。この許可をするにあたって,内閣総理大臣はそれが基準に適合しているかどうかについて原子力委員会の意見をきかなければならないことになっており,原子力委員会は原子炉安全専門審査会の審査をへて,内閣総理大臣に答申を行なうことになっている。したがって,原子炉安全専門審査会は,その安全性について慎重に審査を行なっている。審査会は36年第1回の会議を開催して以来37年度までに,15回開催し,38年度には審査委員が新たに任命され3回開催された。審査の内容は,(第5-1表)のとおりである。

2.原子炉の運転にともなう放射線安全

 38年末までに原子炉規制法により設置が許可された原子炉は11基(このほかに原子炉規制法が制定される以前,すでに原子炉2基が設置されている。),臨界実験装置は6基である。これらの原子炉等の運転および管理については,(第5-2表)のとおりである。
 前述の表のとおり38年度においては,すでに臨界に達した原子炉は,概して順調に運転されており,人体に対する放射線の被曝線量も年度間で1.5レム以上のものはなく,格別の放射線被曝はなかった。
 なお,39年3月21日原研において動力試験炉の原子炉圧力容器下部の制御棒シール装置が故障し,この装置の配管から水が格納容器内の地下室に流れ,運転が中止された。しかしこの際も格別の放射線被曝はなかった。

3.原子炉安全審査調査団

 原子力委員会は,米国における原子炉安全審査の実態を調査し,もってわが国における原子力発電計画の具体化にともなう原子炉の安全審査に資するため,38年10月中旬5名からなる調査団を米国へ派遣した。
 調査団は,主として米国における発電用軽水炉の安全審査について,行政上いかなる手続により安全審査を行なっているかということおよび技術上いかなる観点で安全性の判断を下しているかということについて調査してきた。調査団は39年3月末報告書を提出した。

4.原子炉安全基準専門部会

 原子力委員会は,33年4月以来原子炉安全基準専門部会を設け,原子炉施設の安全性について技術的基準の制定をはかってきたが,38年11月同部会は,陸上に定置する原子炉に対する立地基準の前段階としての原子炉立地審査指針に関する報告書を提出した。
 この報告書では,原子炉事故時の公衆の安全確保に関する次のよ゛うな3つの基本的目標を掲げている。
① 技術的見地からみて,最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故(重大事故)の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。
② さらに,重大事故を越えるような,技術的見地からは起るとは考えられない事故(仮想事故)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。
 なお,仮想事故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいこと。
 立地条件の適否を判断する際には,この基本的目標を達成するために,原子炉から必要な範囲は非居住区域,その外側は低人口地帯でなければならないとし,さらに,人口密集地帯から必要な距離だけ離れていなければならないとしている。
 原子力委員会は,同報告書についてさらに検討を行ない,39年5月原子炉立地審査指針を決定した。


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