第4章 放射線の利用
§3 農林水産業利用

 近年,この部門におけるラジオアイソトープ等の放射線の利用は,試験研究に不可欠なものとして,着実に進展している。そして,生産の増加,肥料の節約等顕著な経済効果をあげつつある。
 トレーサー利用としては,38年度に農林省関係試験研究機関において,前年度にひきつづき施肥法改善,病害虫防除,地下水開発,家畜飼養法改善,水産油脂の栄養価等に関する多くの試験研究が行なわれたほか,新たに蚕の脳ホルモン代謝に関する研究が,開始され,それぞれかなりの成果を得た。
 照射利用としては,放射線による突然変異を利用する米,麦,果樹,くわ;茶,林木,花木等の品種改良の研究が行なわれた。なお,農林省放射線育種場は,130キュリーの137Csを線源とするガンマグリーンハウスの新設,実験室の増設等により施設がいっそう充実された。そのほか,放射線による食品の殺菌等の研究が行なわれ,38年度末には農林省食糧研究所にファンデグラーフ型加速器(1MeV,150 W)が設置された。これは,電子線による食品の殺菌等の研究を行なうためのもので,食品研究用としてはわが国で最初の加速器である。一方,米国におけるこの分野の研究の急速な進展等の影響もあって,食品照射に関する情報交換,研究成果の紹介,討議等を目的として,国公立試験研究機関,大学等の研究者からなる「食品照射研究協議会」が39年2月に発足した。


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