第2章 原子炉の開発
§7 原子力船

 原子力の船舶動力への利用は,海外において,米国のサバンナ号,ソ連のレーニン号の完成を機としてとみに促進され,西ドイツをはじめつぎつぎに原子力船の開発計画が進められている。
 わが国においても,原子力船が将来果たすべき重大な役割りを考慮して,原子力委員会は,36年2月策定した「原子力開発利用長期計画」のなかで,その経済性は50年頃までに在来船に匹敵すると期待されるので,43年ないし45年に原子力船建造技術の確立,乗組員の養成訓練に資するため,原子力第1船の建造が必要である旨を明らかにした。
 この考え方を具体化するため,原子力委員会は原子力船専門部会を設置し検討を行なわせ,37年6月報告を受けた。この報告の趣旨に沿い,原子力委員会は,38年度から実験目的の原子力船の建造計画に着手し,一貫した責任体制のもとに計画遂行に必要な業務を行なわせるために,官民共同出資の特殊法人日本原子力船開発事業団を設立することとした。
 38年度に事業団設立のための予算措置が講じられた。また,事業団設立のための日本原子力船開発事業団法案が,38年2月第43国会に提出され,同年6月5日成立し,同法は同月8日関係政令とともに公布施行された。
 同事業団法附則にもとづき,第1回設立委員会が6月28日開催され,同日同事務局が発足した。定款の認可,民間からの出資金および寄付金の募集,設立の認可を経て,第2回設立委員会が8月10日開催され,理事長たるべき者への事務引継ぎを終えた。この後,政府出資金1億円および民間か
 らの出資金ならびに寄付金約5000万円の払込みを受けて,8月17日設立登記を行ない,事業団は発足した。事業団の構成は役員5名および4部8課58名の職員から成っている。
 一方,原子力委員会は,事業団法の規定にしたがい38年7月「原子力第1船開発基本計画」を決定し,事業団の事業実施の大綱を確定した。そのながで,関連機関との協力,国内技術の活用,安全性の確保などの基本方針を指示するとともに,原子力第1船は総トン数約6000トン,主機出力約1万馬力程度の軽水冷却型原子炉を塔載する海洋観測および乗員訓練船とした。また,計画に着手してから原子炉の臨界まで約5年,その後,慣熟運転完了まで約2年を見込み,ひきつづき実際の航海条件下において諸試験を行なうため,約2年の実験航海を行なうこととした。
 この基本計画にそって,事業団は長期業務計画を定めた。これによれば,38年度に基本設計開始,39年度に建造契約,40年度に船体起工,乗員養成訓練開始,41年度に進水,42年度にぎ装完了,原子炉臨界の後43年度に竣工,同年度内引渡しを予定している。
 事業団は,38年度に基本設計に先立ち,第1船の船体,機関,原子炉等の主要目および性能を決めるため,国内の専門技術者の協力を得るとともに,米国および欧州の原子力船関係者と技術的意見の交換を行なった。39年2月には,原子炉の炉型を「間接サイクル軽水型」と決め,圧力,温度条件,燃料などの主要条件を設定した。((第2-2表))
 基本設計を進めるに当っては,国内技術の向上を図るため,民間企業の参加協力を得て,作業を進めている。
 また,原子力船の振動・動揺対策,安全対策,運動性能等に関する研究は,運輸省船舶技術研究所および関連民間企業において行なわれている。
 なお,原子力船に関する技術を開発し,その建造を促進するとともに,関連工業の発達に寄与することを目的として,33年10月設立されて以来,わが国における原子力船開発研究の中心的機関としての役割を果たしてきた社団法人日本原子力船研究協会は,事業団の発足にともない,38年8月解散した。


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