第2章 原子炉の開発
§3 国産動力炉

 これまでに培養された国内技術を基盤としてわが国の特殊事情のもとに,将来性の期待できる型式の動力炉を自からの手で開発する目的をもって37年8月原子力委員会は,動力炉開発専門部会を設置し,その炉型式の選定および開発体制について審議を求めた。同部会は,38年5月,その審議結果を原子力委員会に答申した。その大要は次のとおりである。
 対象とする炉型式は,天然ウランまたは低濃縮ウランを使用し,かつ,プルトニウム転換比の高い新型熱中性子転換炉とし,高速増殖炉は別のプロジェクトとする。
 開発すべき炉型式としては,重水減速型,ガス冷却型,ナトリウム冷却型の3種類が考えられるが,今ただちに,特定の炉型を選定することは時期尚早で,概念設計を行なった上で「国産動力炉開発計画」の細目案を作成することが望ましい。
 開発手順については,実験炉(数千キロワット)の段階を省略して,ただちに原型炉(数万キロワット)の建設に着手すべきであるという意見が有力であった。
 そのスケジュールについては,原型炉(3~5万キロワット)の設計,建設,運転等を行なう段階とこれを実用大型炉に結びつけるために,デモンストレーション炉( 15~20万キロワット)を開発する段階に分けられる。
 最初の段階は,すみやかに着手することが望ましく,38年度から原研において概念設計の作業にとりかかり,39年度以降は選定された炉型について,原型炉の詳細設計を行ないつつ,必要な研究開発を実施する。
 また,計画の実施にあたって,原研は,ほかの諸機関の総力を結集し,運営の円滑をはかることが必要である。
 以上が,動力炉開発専門部会の答申要旨であるが,原子力委員会は,この報告にもとづいて38年6月国産動力炉開発の進め方の大綱を次のとおり決定した。
① 国産動力炉の開発は,原子力開発利用長期計画の後期10年の半ば頃に実用化の見込の高い動力炉を設計から建設まで一貫して自主的に開発することを目的とし,あわせてこの開発を遂行することにより,国内技術水準の向上に資することを期待する。
② 開発すべき対象は,新型熱中性子転換炉とし,核燃料の有効利用と供給の安定化を重視する見地から天然ウランまたは微濃縮ウランを使用する重水減速型とする。
③ 開発を進めるにあたっては,第1段階として38年度において冷却材にガス,軽水,水蒸気,有機材を用いるものについて比較検討を行ないつつ概念設計を行ない,開発すべき炉型およびその要目を決定する。第2段階として,原型炉の設計,製作,建設および運転を,第3段階として,これを実用大型炉に結びつけるためのデモンストレーションの建設を行なうこととする。
 なお,第2および第3段階の実施にあたっては,それまでの開発の成果を検討,評価の上さらに具体的な進め方を決定する。
④ 開発の主体は,第1および第2段階においては原研を中心とし,民間産業界等の参加協力を求め推進する。このため,38年度から原研に本動力炉開発を担当する部門を設置するとともに,所外の専門家の参加を求め,概念設計の技術的評価および原型炉開発の細目立案についての技術的事項に関し,理事長の諮問に応ずるための委員会を設置する。第3段階における開発の主体は,今後の進展に則して決定する。
 原研は,前記原子力委員会の決定にしたがい,38年6月国産動力炉開発室を発足させて,重水減速炉の設計研究,概念設計作業等に着手するとともに同年7月「国産動力炉計画委員会」を設置した。
 同委員会は,
① 国産動力炉計画の対象となる炉型の概念設計についての技術的評価
② 国産動力炉計画の原型炉開発についての技術的事項に関し,原研理事長の諮問に答える諮問委員会であって,委員は,学界,産業界等から選ばれている。
 原研は,同委員会において炉型の検討をすすめるとともに,海外における重水減速炉の開発状況を調査するため,38年10月,米国,英国,フランス,カナダ等に調査団を派遣した。
 しかして原研は,重水炉を開発する場合の技術的問題点を明らかにするとともに,さしあたり異なった冷却材による相違を明らかにして,冷却材を選定する際の資料を得るために,38年12月,概念設計を民間企業5社に発注した。
 その設計方針は,天然ウランまたは微濃縮ウランを使用する出力30万キロワットの大型重水減速炉とし,その冷却方式として加圧重水,沸騰軽水(低圧),沸騰軽水(高圧),有機材および炭酸ガスの5種類をとりあげた。
 これらの概念設計は,39年3月各社から原研に提出され,現在,原研においてこれらの比較検討がすすめられている。


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