第1章 総論
§2 わが国の原子力開発の概況

2.研究開発

研究炉
 32年8月完成した原研のJRRー1をはじめとし,38年度末において合計8基の研究炉が稼働している。これらの研究炉による原子力の研究は,原研を中心として,大学および民間企業において活発にすすめられている。さらに2基の研究炉が建設中で,1基が計画中である。

動力試験炉
 36年1月から本格的な建設工事が開始された動力試験炉(JPDR)は,38年8月に臨界に達し,10月26日に試験的ではあるが,わが国ではじめて原子力による発電が行なわれた,このことは,わが国の原子力開発利用上画期的なできごとである。しかし,その直後建設請負者ジェネラルエレクトリックジャパン社は,JPDRに関する労働不安を理由として,突然運転停止を申し入れた。この結果,約3週間にわたって出力上昇試験は中止せざるを得ない事態となったが,その後,出力上昇試験も無事終了し,12月9日に原研に正式に引き渡された。

国産動力炉
 動力炉の開発については,海外技術の導入による国産化能力の培養と並行して,すでに蓄積された国内技術を基礎として,将来性のある国産動力炉を開発する必要があるとの見地から原子力委員会は,38年6月,国産動力炉開発のすすめ方の大綱を次のとおり決定した。すなわち,50年頃に実用化の見込みの高いものであり,その炉型式は天然ウランまたは微濃縮ウランを使用する重水減速型とする。まず,38年度において冷却材にガス,水蒸気,軽水,有機材のいずれを採用すべきかの検討を行ない,開発すべき炉型およびその要目を決定する。開発の主体は,開発の初期段階においては原研を中心とし,民間企業等の参加協力を求め推進することとし,デモンストレーション炉建設の段階における開発については,今後の進展に則して決定する。
 原研は,この原子力委員会の決定にしたがい,38年6月,国産動力炉開発室を発足させて,重水減速炉の設計研究,概念設計作業およびその評価等の作業に着手した。また,同年12月には最適の冷却材を選定する際の資料とするために,出力30万キロワットの大型重水減速炉について5種類の冷却方式をそれぞれ採用した場合の概念設計を民間企業に分担発注した。
 なお,同年7月大学,民間企業等の参加を得て国産動力炉計画委員会を原研に設置し,炉型の検討を進めている。

材料試験炉
 核燃料,原子炉材料等の国産技術の確立と新型国産動力炉の開発に資するため材料試験炉が必要である。このため原子力委員会は,35年以来,材料試験炉の設置について検討を重ねてきたが,38年8月熱出力5万キロワットの材料試験炉(JMTR)を43年度完成を目途として,原研大洗地区に建設することを決定した。これにもとづき,最終的に仕様書の検討が終わり,39年度にその建設契約が行なわれる予定である。

プルトニウム燃料
 原子力発電の開発にともなって生成されるプルトニウムから,さらに有効にエネルギーを取り出すことは,将来の原子力の動力利用としてきわめて大きな意義をもっている。この点に関し,従来,原研と燃料公社とが共同でプルトニウムの基礎的研究を推進してきた。 一方,原子力委員会は,熱中性子炉および高速中性子炉の燃料としてプルトニウムを利用する計画の策定に資するため,38年4月プルトニウム専門部会を設置した。
 専門部会は,原子力発電の開発にともない生成するプルトニウムの核燃料としての利用に関する計画策定に必要な事項について,審議を重ねている。

高速増殖炉
 高速増殖炉の開発については,燃料,大型希しゃく炉心に関する炉物理,ナトリウム機器の大容量化に関する点等について問題がある。
 原子力委員会は,学識経験者からなる懇談会を39年2月以来しばしば開催して,これらの問題点を中心にして,研究開発の考え方を検討している。一方,原研においては,高速増殖炉の基礎的調査研究,設計研究等の検討を行なうとともに臨界実験装置の発注を行なった。

ラジオアイソトープ
 ラジオアイソトープは,放射線源として,あるいはトレーサーとして,工業,医学,農業等に多岐多様にわたって利用されている。
 このようなラジオアイソトープの利用促進の重要性にかんがみ,38年7月,原子力委員会は,ラジオアイソトープの製造と頒布,廃棄物処理,関係技術者の養成訓練および利用に関するコンサルタント等各種サービス業務を総合的に行なう機関として,39年度に「アイソトープセンター」を原研に設けることを決定した。 一方,ラジオアイソトープの製造技術および利用の研究等が原研,国立試験研究機関等において行なわれている。

放射線化学
 放射線による高分子および低分子反応等に関する試験研究が37年度にひきつづき,国立試験研究機関等で行なわれている。さらに放射線化学の中間規模試験を実施するため,200万電子ボルト共振変圧器型加速器および10万キュりーのガンマ線照射装置等を設備した原研高崎研究所が39年3月開所した。
 今後これらの装置を活用して高分子のグラフト重合反応,高圧重合反応等の研究が行なわれる予定である。

核融合
 主としてプラズマの密度や温度の測定法およびプラズマの不安定性等に関する基礎的な研究が名古屋大学プラズマ研究所,その他の大学,国立試験研究機関,原研,民間企業等において行なわれている。


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