第1章 総論
§2 わが国の原子力開発の概況

1.動力利用

原子力発電
 原子力発電所の建設の気運は,31,32年頃から盛り上り,32年12月に原子力委員会は「発電用原子炉開発のための長期計画」を発表し,50年度までに700万キロワットの原子力発電所を建設することを目標として,その方向を打ち出し,数年後には,原子力発電は在来の火力発電に十分対抗しうるようになるとの見通しをたてた。
 この見通しのもとに日本原子力発電株式会社が設立され,34年から英国のコールダーホール改良型炉を茨城県東海村に建設することになった。
 その後,35年頃から世界の石油の供給についての見通しが明るくなり,火力発電の技術的進歩も加わって,原子力発電の経済性が火力発電に匹敵すると推定される時点が,さきに委員会が推定した時点よりもやや遅れることが明らかとなってきた。この間,世界的にも原子力発電所の建設はあまり行なわれず,わが国においても発電2号炉以降の計画はなかなか具体化しなかった。
 このような背景において,原子力委員会は,原子力発電の経済性の見通しとわが国のエネルギー事情からみた原子力発電の必要等から32年の計画を再検討し,さらに放射線利用等のより広い分野における開発研究の方針をも含めて,新たに「原子力開発利用長期計画」を36年2月に策定した。
 この計画によれば原子力発電による発電原価は,海外における開発動向なども考慮して,45年頃には重油専焼火力発電所の発電原価にほぼ匹敵するであろうとの見解のもとに,45年頃までの開発段階において合計約100万キロワットの規模の原子力発電所が建設されることを期待し,次の10年間を発展段階とみて,この間に合計600万キロワットないし850万キロワットの規模の原子力発電所が建設されることを想定している。
 この「長期計画」に先立って,34年から工事が開始された日本原子力発電(株)の出力16万6000キロワットの黒鉛減速ガス冷却型(コールダーホール改良型)発電所の建設工事は順調に進み,39年度末には完成の予定である。
 これに続く発電2号炉は,日本原子力発電(株)が建設する25万〜30万キロワットの軽水冷却型炉であるが,現在,福井県敦賀市に44年完成を目途として建設計画が進められている。発電3号炉以降については,東京,関西および中部の3電力会社が45年完成を目途として,30万キロワット前後の原子力発電所の建設準備を着々とすすめている。
 これらが期待どおり進捗すれば,「長期計画」にいう開発段階における100万キロワットの規模はそれを上回って達成されることとなる。
 しかし,日本原子力発電(株)の1号炉は当初の予想よりかなりその発電原価が高くなる見通しであり,また,発電2号炉以降のものについても直ちに火力発電原価ときっこうし得るとは考えられない。同時に45年前後より各発電所から取り出される使用済燃料の処置もまた問題である。原子力委員会は,開発段階における原子力発電を推進するため,再処理工場の建設および使用済燃料中に含まれるプルトニウムの買上げなどについて具体的に検討を行なった。
 なお,通商産業省産業構造調査会総合エネルギー部会が,38年12月に,わが国における総合エネルギー政策の現状と将来の基本的あり方について提出した報告の中で,原子力発電がエネルギー政策の基調である低廉の原則と安定供給の原則を兼備する新しいエネルギー源としてその位置を高く評価したこと,また,これを受けて同省産業合理化審議会原子力産業部会が39年2月に,原子力発電の現状を分析し開発促進のために当面講ずべき措置を提案したことは,時宜を得たものであった。

使用済燃料の再処理
 原子力発電所の建設が予定どおりすすむと,45年頃には5発電所が稼働することとなり,これら発電所から取り出される天然ウランまたは低濃縮ウランの使用済燃料は,45年頃には年間約100トン,50年頃には年間約200トンになると推定されている。
 原子力委員会は,これら使用済燃料を国内において再処理することとし,原子力発電の推進策の一つとして,1日当たり処理能力0.7トン規模の再処理工場を45年稼働を目途として,原子燃料公社に建設することの検討を重ねてきた。燃料公社は,38年度において建設すべき工場の予備設計について,英国の会社等に発注を行なった。 一方,再処理等に関する基礎的研究が,原研およぴ燃料公社の共同体制のもとで37年度にひきつづいて行なわれている。

原子力船
 32年以降,運輸省船舶技術研究所,社団法人日本原子力船研究協会および民間企業等で原子力船開発のための予備的研究が進められてきた。37年に原子力委員会は,原子力船の建造に関して検討を重ねた結果,約6000総トンの海洋観測および乗員訓練用の船を建造することを決定した。この計画を遂行するための主体として,官民共同出資の特殊法人日本原子力船開発事業団が38年8月発足した。
 事業団は,さきに原子力委員会が決定した「原子力第一船開発基本計画」にそって,38年度に基本設計,39年度に建造契約,43年度に竣工し,その後2年余りの間,実験航海を行なう予定である。
 事業団は,基本計画にもとづき38年度においては原子力船の主要目を決定し,原子炉の型式を「間接サイクル軽水型」と定めた。
 なお,従来,原子力船の研究開発に寄与してきた(社)日本原子力船研究協会は,事業団の発足にともない発展的に解散した。


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