V 放射能対策関係資料

3. 国際連合原子放射線の影響に関する科学委員会第2次総括報告の結論

 電離放射線の影響と,人類の現在の放射線被曝に関してわれわれが行なってきた考察は,電離放射線という危険の港に関する一般的な論評の基礎となるものである。放射線に被曝すると,急性効果を生ずる線量よりもずつと低い線量でさえ,癌,白血病,遺伝的異常など,ある場合には自然に発生するものと簡単には区別できないが,あるいは放射線によるとは確認し得ないような,多種多様の有害な影響が時として生じ得ることが明確になっている。現在まで実験的にしらべられた最低のレベルでも遺伝的障害は起こるという証拠があるので,どんなに少ない放射線でもなんらかの遺伝的障害が起こると考えるのが慎重な態度である。
 事実,人類はたえずいろいろな種類の放射線源からの少量の放射線に被曝してきていること,そしてすべての人工線源から現在つけ加わっている人類の平均被曝は,いまなお自然放射線によるものよりも少ないことを認めなければならない。
 発達した医療施設をもつ国々において,放射線は医学的診断,治療にひろく用いられているが現在のところ一般にはその国の集団の遺伝有意放射線被曝が,それによって50パーセント以上は増加していない。そして,簡単で費用のかからない技術の改良によって,医学的に重要な知見を失なわないで,しかも相当にこの値を減少させることができたという証拠がある,核科学と原子力産業との発達は,集団が被曝する平均放射線レベルをきわめてわずかしか増加させず,また,事故による個人の過度の被曝もごくまれにしか起こさずに遂行されつつある,同時に,核兵器実験からの短寿命および長寿命放射性核種による環境の世界的な汚染を含めて,増加しつつある人工線源による人類の放射線被曝については,特に放射線被曝のどんな程度の増加でも,その影響は身体的疾患の場合には数十年の間遺伝学的障害の場合には多くの世代の間あらわれてつくすことはないであろうという理由で最大細心の注意が必要である。
 それ故この委員会は,すべてのかたちの不必要な放射線被曝を,特に大集団の被曝をともなうときには,最低限にするかあるいはまったく避けるようにする必要があることを強調し,また,電離放射線を平和的に利用する行為はすべて,必らずその結果生ずる被曝を実行可能な最低限のレベルに保ち,そしてこのレベルがその行為の必然性あるいは価値と両立するようにするため,ただちにそして引きつづいて検討吟味を受けるべきであることを強調する。核爆発による全世界の放射能汚染の有害な影響の発生を防ぐ効果的な方法は存在しないから,核実験の完全な停止を達成することが,人類の現在および将来の世代の利益であろう。
 放射線とその生物学的影響の多くの面で,研究が緊急に必要であるということは,この報告においてくりかえし強調してきた。人がいろいろ放射線源から受ける放射線のレベルと,その結果生ずる有害な影響の種類については,広範な,そして増加しつつある知見をわれわれは得ているが,そのような影響が起こると思われる頻度,特に低線量率で受ける小放射線量での頻度についてはいまなおほとんどわかっていないのである。どのようにして放射線が悪性腫瘍性変化やその他の遅発性の化変を組織に起こすかについての研究のみならず,事故による被曝,医療上の被曝,あるいはその他の種類の放射線被曝により,あるいは自然放射線レベルの高い地域において,人類集団中に生ずるそのような晩発効果の頻度に関する十分に計画された調査などを含めて,関連のあるあらゆる方法により,この中心課題の研究を活発に遂行すべきことが最大の重要事である。


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