第5章 放射線の利用

§3 放射線化学

 現在,高温,高圧のもとでの化学反応を利用している化学工業分野で,放射線を利用すれば,必ずしも高温,高圧の必 要はなく,また,反応開始剤や,触媒なしで物質の合成および改質ができる。
 このように,放射線化学は重要な分野であるが,まだ研究の段階で,現在,主として日本放射線高分子研究協会と日本原子力研究所で,基礎的研究が実施されている。
 原子力委員会は,かねてから,放射線化学専門部会を設け,研究開発上の問題点の検討を行なってきた。その結果,民間企業,国立研究機関等で開発された有望な反応について,中間規模試験を行なう中央研究機構が,必要であるとの結論をえた。
 このため,日本原子力研究所の1支所として,高崎に放射線化学中央研究所を設けることになり,37年度末から,群馬県群馬郡群南村で建設が開始された。この研究所の運営については,とくに産業界・学界の協力をえることに主眼がおかれ,関係各方面の代表者からなる運営委員会が設けられている。
 一方,この研究所の敷地については,設立の主旨から,とくに大学・民間等との密接な共同研究の必要があり,そのため交通の便を重視し,前記地点に決定された。日本原子力研究所の計画によれば,この研究所は,37年度から4年計画で総額約43億円で建設されるもので,完成後は民間からの派遣研究員も含めて255名の所員が予定されている。
 最初に建設される30万キュリーの60Co照射装置と2MeVの加速器は,38年度末に完成の予定である。これが完成すれば,セルローズへのスチレンゲラフト重合と,エチレンの重合の中間規模試験に利用される。


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